20世紀最後の年、西暦2000年に「新世紀を詠う」という題詠が「角川・短歌」誌上であった。おりしもNHKではさまざまな特番がそれぞれシリーズ化されていた。テーマの中心のひとつに戦争の問題があった。
二つの世界大戦のほか、日本が直接間接に関わった戦争は五指にあまる。「20世紀は戦争の世紀だった」と思う日々が続いていた。死者は軍人軍属民間人あわせて数千万に及ぶ。それをそのまま詠んだのだったが、選者は驚いただろう。「希望にあふれた新世紀」という作品が多かったから。並ぶ入選作のなかで、僕の作品だけ選評がスルーされていた。
佐藤佐太郎は社会詠をほとんど詠んでいないが、「純粋短歌論」の初版本に次のようにあるのが、僕の頭を離れなかった。
「現代の社会や思想を詠めないとするのは、非力で怠惰な歌人である。」
そこで僕としては、「実験作」のつもりで詠んだのだが、「世紀の終わり」「戦争の映像を見るイヴ」の組み合わせが詩的世界をつくれた原因だろう。こういうテーマは非常に難しい。他人ごとになりやすいし、新聞記事的にもなる。社会的事件の歴史的評価が定まるのにも時間がかかる。だからそこに普遍性を見出すことは難しい。普遍性がなければ、文学たりえない。
そんな思いで詠んだのだが、翌年9・11同時テロが起きて状況は一変した。21世紀も「戦争の世紀」として始まった。
「9・11以来様変わりしてしまってね。」
とため息ともいえない言葉を発した国連NGOの地方の責任者をしている人の言葉が今でも僕の耳に残っている。
