岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

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皇帝ペンギンの歌:塚本邦雄の短歌

2009年10月19日 21時11分57秒 | 私が選んだ近現代の短歌
・日本脱出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも・

「日本人霊歌」所収。

 塚本邦雄の代表作。「斎藤茂吉と塚本邦雄(1)(2)」の記事 <カテゴリー「斎藤茂吉の短歌を読む」> にも書いたが、塚本の作品は寓意に満ちている。それもかなり強烈な寓意に。

 この一首の「皇帝ペンギン」「皇帝ペンギン飼育係」が何を「象徴」しているのか様々な読みがある。

・「皇帝ペンギンは古い日本」「飼育係は日本人」

・「皇帝ペンギンは戦前の日本をリードした高貴な人たち」「飼育係は庶民」

・「皇帝ペンギンは昭和天皇」「飼育係はその側近」

と様々である。塚本邦雄自身は、これらを混沌とした印象として表現しているのだと僕は思っている。僕がそうした読み方をするようになったのは、象徴派の歌人から頂いた一枚の葉書だった。「言葉の意味自体ではなく、言葉が作り出す印象を感じとる」。印象鮮明ということでは斎藤茂吉も同じであるが、言葉の意味にかける比重の違いがあるのではないかと思う。

 「皇帝ペンギン」と「飼育係」が何をさすかということも議論の対象となるところだが、この一首が塚本邦雄の作品の特徴をあらわしているところに、僕は注目している。

 塚本邦雄の作品は、「伝統の否定」「権威の否定」「偶像の否定」などと呼ばれることがある。確かに作品を読むと、「束縛からの解放」「社会の動きへの敏感な反応」「新しい価値観の探究」などがかいま見える。それに加え、戦争を体験したという大変な重圧を常に意識しているらしいところにもポイントの一つがあると思う。

 塚本邦雄は晩年まで総合誌の新人賞選考委員をしていたが、今あらためて選考委員会の座談会の記事を読むと、「社会や人間への凝縮された視線」といったものを感じるのである。



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