・落日を送る岬の夕凪に聴こゆ万騎疾走のおと
「春雪ふたたび」所収。
地名は捨象されているが、これは稲村ケ崎の故事を素材とした作品。鎌倉時代の再末期。鎌倉をせめあぐんだ新田義貞は、切通を攻めずに海岸沿いから鎌倉に攻めいった。
稲村ケ崎の浜辺に、日本刀を投入し、引き潮を祈った。潮が一瞬引いて、新田軍は鎌倉に突入。「太平記」の記述だが、歴史的事実の真偽より、これを素材にして作品化した作者には脱帽。「NHK歌壇」で紹介された時、鳥肌がたった。
古典の知識はなおのこと、地名が捨象され、新田軍の騎馬武者が音を立てて走りゆく音が耳に響く。
尾崎左永子の代表作のひとつだ。