歌集「大女伝説」。新聞記者としてフリーランスのジャーナリストとして活動する作者の眼のはっきりしているのが最大の特長。
作者は「かりん」所属。第3歌集。第45回短歌研究賞「遠き鯨影」(30首)を含む「短歌研究」8回の連載作品を中心とした歌集である。(新カナ・文語口語混合文体)
まず「物語性」を感じさせる作品群から。
・地に堕ちし四羽の鳥の物語 中浦ジュリアン真白き一羽・
・魂の翼もがれて生きること痛まし千々石ミゲルの棄教・
・昔語りぽおんと楽し大きなる女が夫を負うて働く・
次に「社会への鋭い眼」を感じさせる作品群。沖縄に取材している。
・体内に異物受け要れ吐きだせぬ沖縄という貝の抱く闇・
・来歴を知れば歩けぬ道もある南島の隠す深き傷跡・
その他に「女性としての自意識を感じさせる作品」「深い自省の作品」「職場詠」など内容が豊富だ。それらを詩たらしめているのは、適切に使われている「暗喩」「素材の切り取り方」「物語的な一連に紛れこまされている< われ >のありよう」という作品配列である。
この読みごたえが、文語口語の割合・新カナ表記の是非などを吹き飛ばす。が、底知れぬ悲しみを感じさせる歌群もあり、そこも魅力のひとつである。
「自分の歌柄を大きくしたいと願っていた」と「あとがき」に書く作者だが、今後さらに大きくなっていく予感を僕はもっている。(2010年・短歌研究社刊)