岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

短歌・日本語・斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・社会・歴史について考える

短歌の道しるべ(9)

2012年11月19日 23時59分59秒 | 作歌日誌
:短歌の道しるべ:(9)

 ◎今月のワンポイント 12月

*佐藤佐太郎の作品から(3)都市詠*

 つとめ終え帰りし部屋に火をいれてほこりの焼くるにほひ寂しも 「軽風」

 表通りの石みちを壊す物音は昼すぎてより間近に聞こゆ


 舗道には何も通らぬひとときが折々ありぬ硝子戸のそと     「歩道」

 街川のむかうの橋にかがやきて霊柩車いま過ぎて行きたり

 朝のまの時間は晴れてしづかなる光となりにぬ街路樹のうへ


 地下道を人群れてゆくおのおのは夕(ゆふべ)の雪にぬれし人の香「しろたへ」

 探照灯の幅ある光ひと時にほしいままのごと空に横たふ


 連結を終わりし貨車はつぎつぎに伝わりてゆく連結の音     「帰潮」

 舗装路のところどころにあらわれて慎ましきこの土の霜解け

 踏切を貨車過ぐるとき憂いなくながき響きをわれは聞きゐし


 人間はみな柔らかに歩み居るビルディング寒く舗道寒くして   「地表」

 鉄のごとく沈黙したる黒き沼黒き川都市の延長のなか

 平炉より鋳鍋にたぎちゐる炎火の神髄は白きかがやき


 あゆみ来て水見えるときさわがしい港の音はその水にある    「群丘」


 地下道を出で来つるとき所有者のなき小豆色の空のしづまり   「冬木」




 おぼおぼとしたる市街の延長に林のごときビルの聚落      「形影」


 街ゆけばマンホールなど不安なるものの光をいくたびも踏む   「天眼」





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