岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

短歌・日本語・斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・社会・歴史について考える

短歌の道しるべ(8)

2012年11月16日 23時59分59秒 | 作歌日誌
短歌の道しるべ(8)

 *佐藤佐太郎の作品から(2)心理詠*

 炭づげば木の葉けぶりてゐたりけりうら寒くして今日も暮れつる「軽風」

 日曜の何するとなき部屋にゐて炭はねしときひどく驚く    「歩道」

 薄明のわが意識にて聞こえ来る青杉を焚く音と思ひき

 目覚めたるわれの心にきざすもの器につける塵のごとしも

 火消壺に燠(おき)を収めて眠るときあきらめに似て一日(ひとひ)終わらむ


 苦しみて生きつつをれば枇杷の花終わりて冬の後半となる「帰潮」

 おもひきり冬の夜すがら降りし雨一夜は明けて忘れ難しも

 道の上に歩みとどめし吾がからだ火の如き悔いに堪えんとしたり

 今しばし麦うごかしてゐる風を追憶を吹く風とおもひし

 雲間よりかりそめに光来るごとくためらひながら生きてゐる吾

 明けくれの貧しき吾と思ふなり人参の花ここにも咲きて

 街上のしづかに寒き夜の靄われはますしき酒徒にてあらむ


 さわがしき中に酒を飲む悦楽のたとへば貝にこもる潮音「地表」

 秋彼岸すぎて今日ふる寒き雨直ぐなる雨は芝生に沈む


 砂糖煮る悲劇のごとき匂ひしてひとつの部落われは過ぎゆく「群丘」


 みるかぎり起伏をもちて善悪の彼方の砂漠ゆふぐれてゆく「冬木」

 憂ひなくわが日々はあれ紅梅の花すぎてよりふたたび冬木


☆心理詠とは人間の感情を直接詠いこんだものです。しかし、心には形がありません。そこで、目に見える「もの」に託すなど工夫をしています。☆




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