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書評:『茂吉秀歌』(全5巻)講談社学術文庫 塚本邦雄著

2015年01月21日 23時59分59秒 | 書評(文学)
『茂吉秀歌』(全5巻)講談社学術文庫 塚本邦雄著


 斎藤茂吉の作品の鑑賞の書籍はいろいろある。佐藤佐太郎著『茂吉秀歌』(岩波新書)、長澤一作著『斎藤茂吉の秀歌』(短歌新聞社)。

 だが佐藤佐太郎と長澤一作の著書は、弟子筋が書いただけあって、「評価に値する作品」だけを、アララギ風の批評用語で叙述している。「写実派」がどう斎藤茂吉を評価したのかの参考となる。

 ところが塚本邦雄の書いた本書は、この二冊とは視点が違う。

1、収録歌数が多い。

 かなり厚い文庫本が5冊分。一首についての鑑賞文もかなり長い。斎藤茂吉には駄作も多いが、その駄作も含めて鑑賞している。弟子筋には書けない叙述だ。


2、作品を抒情詩として解析している。

 批評用語に現代詩の用語が頻繁に出て来る。ヨーロッパの詩人との比較も出てくる。斎藤茂吉の作品を、「写実歌」と決めつけないで、茂吉が象徴派詩人の技法を使っているのも解明される。

 いわば斎藤茂吉の作品を、立体的に鑑賞していると言っていいだろう。

 また斎藤茂吉の作風の変化も、それぞれの巻末の「跋」で纏められている。鑑賞本と言うより、研究書に近い。

 そして本書は、塚本邦雄が「自分の作品を自己模倣」と言い始めた時期に、執筆されている。塚本はこの時期、王朝和歌の研究もしている。本文の端々から、新境地を模索する、著者の姿が浮かぶ。

 この全5巻に勝る内容とボリュームのある、斎藤茂吉の作品論はないだろう。

 これを読んでいると、斎藤茂吉の最大の理解者は塚本邦雄であったと思えるほどだ。


 全5巻のタイトルを書き出しておこう。

 『茂吉秀歌「赤光」百首』

 『茂吉秀歌「あらたま」百首』

 『茂吉秀歌「つゆじも」から「石泉」百首』

 『茂吉秀歌「白桃」から「のぼり路」百首』

 『茂吉秀歌「霜」「小園」「白き山」「つきかげ」百首』

 塚本邦雄は『赤光』と『あらたま』に一巻を費やしている。斎藤茂吉の代表歌集を『赤光』『あらたま』と考えていたのがわかる。

 
斎藤茂吉の作品を「複眼」で見るとどうなるかを教えられる一冊である。




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