斎藤茂吉の第16歌集「白き山」
ここには斎藤茂吉の晩年の代表作が収録されている。
作者は戦争中に戦時詠を旺盛に詠み、終戦後「戦犯歌人」と呼ばれ、歌壇の一線を退いた。この失意を作品化したのが、この歌集である。
・「追放」といふこととなりみづからの滅ぶる(ほろぶる)歌を悲しみなむか
歌壇の一線を退いた失意の念がひしひしと伝わってくる。
・運命にしたがふ如くつぎつぎに山の小鳥は峡(かひ)をいでくる
小鳥が山あいから飛び立ってゆく。まるで運命に従うように。小鳥の名前は省略されている。何故か、上の句に心情の中心があるからだ。後に「表現の限定」として佐藤佐太郎に引き継がれた。
・オリーヴのあぶらの如き悲しみを彼の使徒もつねに持ちてゐたりしや
キリスト教の使徒。キリストの弟子たち。ローマ帝国の迫害にあいながら教えを広めていった。迫害されている作者に重ねている。上の句の比喩がなんとも痛々しい。
・最上川逆白波のたつまでにふぶくゆふべとなりにけるかも
この歌集の一連の最上川の歌で、もっとも知られている作品。「逆白波」という造語、結句の「なりのけるかも」の万葉調。これで吹雪で波が逆巻く夕暮れの情景を見事に表現している。