・形なきもの吾を責む過去のかげ未来の影というわかち無く・
「帰潮」所収。1947年(昭和22年)作。
佐藤佐太郎の作品は定型に忠実なものが多い。統計をとった訳ではないが、十数年前の総合誌上に、
「短歌は5・7・5・7・7の定型をもつ。佐藤佐太郎の系統は特に厳密である。」
という記事があったように記憶している。
ところが、この作品には「定型を守りながらの独特の工夫」が見られる。
まずは音数。
「形なき・もの吾を責む・過去のかげ・未来の影と・いふわかち無く」
5・7・5・7・7の定型を守ってはいるが、初句と二句、四句と結句が「句またがり」になっている。しかも二句切れ。声調に勢いがある。つまり、音数を守りながら、「句またがり」「句切れ」を使って、感情の屈折や切迫感を出しているのである。
次に意味。意味からすると、三句と四句が対句になっている。しかし、音数は5音と7音。意味の上では対句でも、音数は異なる。ここにも工夫がある。
最後に時間。佐太郎は「短歌は空間的・時間的に限定すること」というが、時間的には三句目が過去・四句目が未来、そして自らを責める現在の「われ」がある。
定型を守りながら、これだけの工夫をしている。おそらくは推敲を重ねたのだろうが、5句31音の定型は決して不自由なものではないということを教えてくれる作品といっていいだろう。