「斉藤茂吉なしに近代短歌は語れない」といったのは国文学者の故・今西幹一。近代短歌の「巨人」だ。巨人といえば大西巨人「大概の歌人は10首詠んであたりは半分くらい。斎藤茂吉はあたりが八割はある」といった。
このことは余人の及ばないところ。「知っている歌人は、斎藤茂吉と俵万智」といったのは僕の知人だ。それだけ存在感がある。
加えて表現が多彩だ。
・隣室に人は死ねれどひたぶるに箒ぐさの実食いたかりけり
「赤光」
幼児期の望郷の歌。
・しろがねの雪ふる山に細ぼそとして路みゆるかな
「赤光」
寂しさの漂う叙景歌。
・赤茄子の腐れてゐたるところより幾程もなき歩みなりけり
「赤光」
幻想的な歌。
・死に近き母に添寝のしんしんと遠田のかはづ天に聞こゆる
「赤光」
母恋の歌。
・あはれあはれここは肥前の長崎か唐寺の甍にふる寒き雨
「あらたま」
音楽性の高い歌。
・電信隊浄水池女子大学刑務所射撃場塹壕赤羽の鉄橋隅田川品川湾
「たかはら」
見えたものを漢語で並べた歌
・沈黙のわれに見よとぞ百房の黒き葡萄に雨降りそそぐ
「小園」
意気消沈した歌
・最上川逆白波のたつまでにふぶくゆふべとなりにせるかも
「白き山」
哀愁感の漂う雄大な叙景歌
・暁の薄明に死を思うことあり除外例なき死といへるもの
「つきかげ」
寂しさの漂う境涯詠。
割愛したが人口に膾炙した作品が最も多いのは斎藤茂吉だろう。評価するにしても多くの書籍が刊行されている。
「星座α」の尾崎左永子は「明治の『前衛短歌』だった。」という。