短歌の道しるべ(11)
◎今月のワンポイント 二月◎
*社会詠(時事詠)*
佐藤佐太郎は、社会の出来事や事件を直接短歌に詠みこもうとはしませんでした。理由は色々と考えられましすが、『純粋短歌』という著書の中で次のように述べています。
「思想や社会を短歌に盛りこめないというのは、正確な見方ではない。詠みにくいということはいえるけれども、現代のすぐれた歌人達はそれを実行している。(思想や社会を詠めないというのは非力で怠惰な歌人である。)」
( )の中は後に削除されました。その理由については、とりあえず国文学者に任せるとして、人間が社会の中で生きている限り、短歌の作者が社会の出来事や事件について、敏感にならざるを得ないことに間違いはないでしょう。
ここでは、或る短歌大会の入選作から、いくつか採り上げてみます。
☆戦死者の耳覚めゆくや日本語の溢るるグアムに潮騒高し
☆フリーターのわれにも未来があるようにらっぱ水仙こつぜんと咲く
☆母子家庭の申請書出し帰り道今日の雪はよく目に刺さる
☆生命(いのち)ある限りは戦後竹槍に似たる杖引く老いの明けくれ
☆残業の烏賊の仕込みを引き継ぎて明日から試験のバイトを帰す
☆二十人の勤務評定書き終えて下校のチャイムを目を閉じて聞く
☆渓流をせきとめ山女(やまめ)追いかけし友の多くは征(ゆ)きて還らず
おっと、佐藤佐太郎にも、次のような作品がありました。
:戦(たたかい)はそこにあるかと思ふまで悲し曇のはての夕焼:『帰潮』
中国の内戦が激しくなった頃の作品です。西の空が真っ赤になって、その先には戦場がある。もしかしたら、夕焼けの赤と兵士の流す血の色を作者は重ねて見ていたのかも知れません。先ほどの入選作とは表現方法が全く違いますが。