岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

短歌・日本語・斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・社会・歴史について考える

2018年の作品より:五首抄出

2019年02月17日 01時13分34秒 | 岩田亨の作品紹介
2018年の作品より:五首抄出


・やみがたき悲しみの湧く八月にわが歩みゆく鎌倉は雨「星座」



・亡き父に問いたきことのなお多く遺影の前にヒマワリ捧ぐ「星座」



・救命を拾う命と読み違え病室にベッドに寝ておりわれは「星座」



・戦争の気配をたしかに感じ居り雪の日に届く新聞記事に「星座」



・動脈の一部が細いという奇形腹腔動脈圧迫症候群「星座」



 五首とも尾崎左永子主筆の選。


 一首目。「星座」の事務局が鎌倉にあるため、校正、「星座」「星座α」の歌会で鎌倉にいくことが多い。「岩田さんの秘密基地」と評する友人がいるが、すっかりそうなってしまった。八月は終戦記念日のある月。300万の日本人同胞の死者を思う。2000万のアジア諸国の死者を思う。そんな沈鬱なある日、鎌倉へ行ったら、雨がしき降る。


 二首目。父は64でこの世を去った。昭和2年の生まれだが、戦時中の写真の目が恐ろしく鋭い。「生まれてから死ぬことばかり考えていた」という。同学年の青年たちは次々と戦地へ送られていた。配色濃厚の時期にあっては「死ぬことばかり」という表現はあながち誇張ではないだろう。今生きていれば聞きたいことがたんとある。


 三首目。2018年は突然の動脈瘤破裂で救急搬送された。「痛みをあと半日我慢していたら命はなかっただろう」と医師から言われた。ICUに入れられて、病棟に移ったあとも車椅子生活だった。「救急救命センター」だが「救命」の文字が一瞬「拾命」と読めた。病院で命拾いをしたのは通算三度目。


 四首目。「短歌」の別冊に「戦争はなぜ起こるか」というものがあったように、日本が戦争へ突っ走っているように感じる。新聞を見るたびに、感じさせられる記事がある。エッセイで書いたが僕は小さいころから戦争の話を聞いた。祖父から祖母から、父母から。だから余計そう感じるのだろう。ことし92歳の母が言う。「戦争はいつの間にか始まっていた」と。


 五首目。動脈瘤破裂の原因は、先天的に腹部の動脈が細く血液が逆流するのが原因だった。100人に3人の異常。そのうち発病するのが1人。発病しない人の方が多い。出血部分の血管を結索して出血を止めた。今度いつ発病するか神様でもわからないという。治療方法は医学界で認められたものはない。ほっといてよいという医師さえいる。手術という方法があるが、開腹手術を2回受けた僕の状態から手術には危険が伴うとも言われた。定期的に検査して出血があったら大ごとになる前に出血を止める方法があるが、その検査はCTスキャン。頻繁にやると被爆の線量が多くなる。もう成り行きに任せるほかはないだろう。それでも生まれてきてよかったと思う。




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