アニメ・ビジネス・フォーラム2007@NBonline
コンテンツ産業の花形として取り上げられるようになったアニメーション。しかし、そのビジネスの現場は決して明るい雰囲気ではない――。業界の構造分析と
成長のソリューションを求めて、1999年末から毎年開催してきた「アニメ・ビジネス・フォーラム」。今回はセミナー形式ではなく、Webでの情報発信に
形を変えて、アニメ産業、映像産業の現状を追ってみた。
「今、アニメ業界は盆地から何とか出口を見つけて這い上がろうとしている状況だ。ビジネスモデル的に大きな曲がり角にきているのは間違いない」――アニメ関連企業大手の幹部はこう漏らす。
図1 アニメDVD新作数
上図の通り、かつてないほどの数の作品が生まれているアニメ業界だが、2006年を振り返った時、国内のアニメーション関連には「これ」といえる目立ったトピックがない。新作のテレビアニメでのヒットと言えば「
涼宮ハルヒの憂鬱」くらいだろう。
盛り上がりが期待された日本テレビ放送網&
スタジオジブリ連合と、フジテレビジョン&ゴンゾ(GDH)連合の夏のアニメ映画対決は、興行収入76億5000万円を稼ぎ出した「ゲド戦記」に軍配が上がった。
ちなみに、この数字は2006年の邦画ではトップだ。しかし、200億円を記録したジブリの前作「ハウルの動く城」に遠く及ばなかったことに加え、作品の内容についても厳しい評価が各所で報道されるなど、この対決には少々肩すかしの感があった。
一部を除いてアニメ関連企業は減益基調に
「2006年9月時点で12万セットを超える予約」(
バンダイビジュアル広報の元洲智美氏)という「
機動戦士ガンダム」のDVD-BOXを今期中に発売するバンダイビジュアルと、その「ガンダム」のロイヤルティー収入を得る創通エージェンシーの2社が揃って今期の見通しについて増収増益を発表。
こうした明るい話題がある一方、映像制作をメーンとする企業のほとんどが、今期の決算予想で減益を発表している。特に、昨年夏のアニメ映画の主役の1社だったGDHは最終赤字に転落する見込みだという。
こうした背景には何があるのだろうか。現在のアニメ制作会社のビジネス構造と共に、その問題点を見ていこう。
アニメ・ビジネスの3つの収益の柱
アニメ制作会社のビジネスにおいて収益の柱となるものは作品の制作収入、国内ライセンス(ロイヤルティー)収入、海外ライセンス収入の3つだ。
テレビアニメの制作費については、1980~90年代半ばまで1話当たり700万~800万円という相場が長らく続いていたが、90年代後半からアニメ
関連ビジネスが成長してきたため、現在では1000万~1300万円程度の水準となっている。ちなみにOVA(オリジナルビデオアニメーション、テレビ放
映や劇場公開を前提としない、メディア販売のみの作品)の相場は2000万~3000万円、アニメ映画は1億~3億円前後が一般的。ジブリやプロダクショ
ン・アイジー(I.G)が制作するような高品質な作品になると、10億~20億円をかけるケースもある。
アニメ業界は建設業界と同じく、元請けと下請けによる階層構造が出来上がっている。元請けはテレビ局や映画会社、ビデオメーカーなどから制作を受
託。制作の一部を協力会社(=下請け制作会社)に依頼し、受領した制作費から支払う。こうしたやり方のほか、元請けは、管理手数料などを控除して制作その
ものをすべて、下請けに制作委託(=まる投げ)するケースもある。
後者の場合、元請けの管理費が高めに設定されていると、実質的な制作費が不足し、下請けの制作体制が維持できないことがある。また、いずれの場合も作品にかかわる著作権を持てるのは、一般に元請け会社のみ。下請けは権利を持つことはできない。
また、ここ数年で一般化した製作委員会方式(出資組合)の場合は、制作資金を出資することで、出資した割合に応じて権利を確保できる。現在では、この方式で作られている作品が8割以上を占めており、元請け以外に下請けの制作会社が出資するケースも出てきた。
ただし、出資の場合は単なる制作受託と異なり、作品のビジネスが成功すればいいが、そうでなければ出資した分が戻らないというリスクも抱え込むことになる。
作品を制作し、成立した著作権(=著作財産権)を行使して、作品のDVD化や商品化を許諾することで得られるのが版権ビジネス収入だ。いわゆるライセン
スビジネスにおけるロイヤルティー収入である。一般に玩具などの商品化の場合、ロイヤルティー率は商品の小売価格の3~5%程度に設定されている。
現在、コーナー展開ができるほど多数のアイテムを商品化するアニメ番組は少ない。実際、玩具売り場を覗くとキャラクター商品で目につくのは「ガン
ダム」や「ドラえもん」を筆頭に、「アンパンマン」「ポケモン」「ドラゴンボール」など定番シリーズばかり。これらに加え特撮の「仮面ライダー」「スー
パー戦隊」シリーズ、「ウルトラマン」などの商品が中心だ。比較的新しい作品はというと、女児向けで久々のヒットとなった「ふたりはプリキュア」シリーズ
くらいしかない。実は、こうした状況が数年続いているのだ。
セルDVDマーケットでの回収モデルが揺らぐ
数多く制作されている作品の多くは、どこで稼いでいるのか。それがDVD化などによるパッケージ販売収入(のロイヤルティー)だ。
最近のテレビアニメの多くは、放送期間を1クール(3カ月)あるいは2クールに設定している。こうしたものは宣伝などのマーケティング期間を考慮すると、そもそも視聴者にアピールするための時間が足りないため、玩具などの商品化には向かない。
その代わり、コンテンツの保有意欲が高いコアファンに受ける演出を施し、DVDのセールスによって制作費をリクープ(回収)するビジネスモデルを採用しているわけだ。従って、狙う市場はレンタルDVDではなく、セル中心となる。
図2 アニメDVDの売り上げ推移
ところが、2006年後半に入って収益の大半を頼るセルDVDマーケットに元気がなくなってきた。日本映像ソフト協会(JVA)のデータによると、セル
DVD市場全体では、新作タイトル数が前年増にもかかわらず、金額ベースでマイナス成長となっている。その中でアニメーション分野の数字を見ると、
2006年1~6月実績では金額ベースで106.5%成長と健闘しているが、タイトル数の伸びは12.2%でこれを大きく上回る。これは「ガンダムなどの
一部の売れるタイトルと、そうではないタイトルの差が極端になってきた」(大手アニメ販売事業者)ためという。例えば2005年下期の売上高が大きく膨ら
んでいるのは「ハウルの動く城」と、「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」、映画版の「機動戦士Zガンダム」のリリースによるものだ。
背景には、HDDレコーダーの普及といったいくつかの理由があるが、いずれにせよアニメ各社にとって厳しい環境を招く大きな要因となっている。リクープできない作品はどんどん増えているのだ。
過当競争などにより海外向け相場が下落
北米や欧州など海外向けに、テレビ放映権やDVD化権、商品化権などを販売する海外ライセンス収入は、最近のアニメ・ビジネスにおいて重要度が年々高まっている。
テレビシリーズの取引形態は、映像のみの権利を販売するケースと、映像と商品化などの権利を切り分けずにすべての権利(=オールライツ)を販売するケースの2通りがある。ただし、後者であっても映画化や実写化などの権利は含まれない。
実は、日本製アニメは海外向けマーケットでは“優等生”と言われ続けていた。その理由は、相対的な比較によるもの――。つまり、ハリウッド映画が中心の国際市場において、日本の実写ドラマや映画が、全くと言っていいほど競争力を持っていなかったためである。
一方、日本の文化を背景にしつつも、「実際の日本人」が映像として登場しないアニメの場合は、その無国籍なテイストが欧米でも受け入れられ、特撮映画の「ゴジラ」と並んで、数少ない輸出商品として市場に浸透していった。
とはいえ、1990年代半ばまでの北米向け価格は、日本でヒットした作品であっても1話当たり数千ドル程度。需要の大半が北米の場合、ローカル局やセルビデオ向けだったため、なかなか1話1万ドルの“大台”を超えることができなかった。
こうした中、ついに1万ドルの壁を破る作品が登場した。それが95年からテレビ東京系で放映されたガイナックス作品の「新世紀エヴァンゲリオン」。
その後、99年に「ポケットモンスター」シリーズが世界的に大ヒットしたおかげで、日本製アニメは追い風に乗り、取引相場は急騰。2001~04年頃ま
では1話当たり4万ドル前後の取引が成立していた。一部には、(契約形態にもよるが)8万ドル前後の作品もあったという。こうした流れから、多くの作品で
海外ビジネスを当初から組み込んだ収支計画が組まれるようになっていった。
しかし、国内のテレビアニメの放送が週80~100本となったのに伴い、国際マーケットにも大量の作品が投入されることになってきた。
これにより日本製アニメはダブツキ感によるバリュー低下に加え、北米のDVDマーケットの縮小というダブルパンチで取引相場は弱含んでいる。現在は、一定の評価を得た作品でも1話2万ドル前後。これよりも低価格で取引されるケースも多数出ているという。
原作の枯渇とモチベーションの低下
DVDマーケットの成長の陰りや海外での相場下落以外で、問題視されているのが原作の枯渇である。少年漫画誌は言うに及ばず、青年漫画誌、小説、ライト
ノベル、ゲーム、さらに同人誌やアダルト雑誌、アダルトゲームまで、アニメ化できそうなポテンシャルを持った作品は、あらかた手をつけてしまった。
従来は、アニメの原作候補となるものには一定の基準があった。例えば、漫画原作ものであれば、「コミックスが10万部以上出ている」といった具合
だ。ところが最近では、制作本数の増加と原作不足のため、その基準に満たないものもアニメ化されている。もちろん、そうした“先行投資”が実を結ぶケース
もある。だが、実際にはビジネス的に困難な状況になるものが少なくない。
加えて、大量制作時代になったことで、別の問題も発生している。それは作り手側のモチベーションの低下だ。
10年前であれば、忙しい中でも1つの作品に対して注力できる環境があった。監督や脚本家、作画関係の担当も「これは俺が作ったものだ」と自負し、作品がヒットすれば、次回作の制作への意欲をさらにかきたてられるという好循環となっていた。
しかし、現在のように流れ作業のごとく作品をこなさなければならないとなると、クリエーターにしてみると「作らされている感」が強い。当然、作品への思い入れも薄れてくる。
このモチベーションの低下は作品の品質に大きな影響を及ぼす。結局のところ映像作品の出来は、作り手の熱意に左右されるところが大きいからだ。予算の多寡は関係するにせよ、現場の作り手がどこまでこだわって作り込んだかが、如実に映像に出てくる。
こうした状況であっても、ヒット作があればまだ救われるが、冒頭で見たようにそれもほとんどない。その結果、モチベーションはさらに下がり、作品にも影響が出てくる。これがファンを失望させる。
この負の連鎖をどこかで断ち切らなくてはならない。
浮上へのソリューションは
この状況を打開する方法はないのだろうか。マーベラスエンターテイメント取締役の片岡義朗氏は1つの解を提示する。
「従来の拡大一辺倒だった流れを変えることで、時間はかかるかもしれないが、この業界は再浮上できると思う。まずは拡大した戦線の縮小。すなわち
作品の制作数を絞ることだ。そして1年経ったら忘れられてしまう作品ではなく、長期にわたって視聴されるクリエイティブに重きをおいた作品を作っていくこ
と。そうすれば、これまで重視していなかったレンタルDVD市場でも受け入れられる可能性は高い。レンタルで確実に6000~7000本のビジネスを展開
し、数年後にセルのDVD-BOXにつなげるという流れもあるはずだ。ただ、作品の選択や絞り込みは慎重にする一方、アクションは大胆にしていきたい。挑
戦がなければプロデューサーの存在意義はないと思っている」
作品の絞り込み、クリエイティブコントロール、短期的な収益確保から長期的な回収への切り替え――。これまでの商慣習の中、これらを実行するのに
は大きな勇気が必要だ。まさにアニメ制作会社の経営者、あるいは作品を統括するプロデューサーの真価が問われる。とはいえ、業界各社が自ら変化をしていか
ないことには、再び成長軌道に乗ることは難しいのも事実だ。
では、実際にアニメなどのコンテンツ分野で、現在どのような動きが展開されているのだろうか――。次回より、4人のキーマンのインタビューから探っていくことにしよう。
(次回に続く)
【関連】アニメ“量産化”の罠…「原作の枯渇」と「モチベーションの低下」-痛いニュース
【過去記事】保守記事.51 誰が悪いの?
保守記事.51-2 懲りてないみたい
保守記事.51-3 やっぱ、だめじゃん
保守記事.51-4 やっぱり、だめじゃん