僕の感性

詩、映画、古書、薀蓄などを感性の赴くまま紹介します。

落語を一席

2008-01-09 00:56:38 | 生き物
 いくみ~コメントサンキュー

今年の干支にちなんで、「ねずみ」という落語を一席紹介しましょう。
 
 左甚五郎といえば、日光東照宮の眠り猫や鳴き龍で日本一といわれた名工、大彫刻家。その甚五郎がふらり旅に出て、ある宿場にやってきました。
 「おじさん、宿はまだ決まってないの」
 声をかけられ、見るとまだ子どもの客引きです。子どもは自分の宿に泊まってくれと一所懸命頼みます。
 案内された旅籠は予想どおりボロボロ、客もいません。向かいの立派で満員の旅籠とは好対照。
 何かわけがありそうなので、尋ねると、じつはこちらが本家だったのだが、おとっつあんが怪我をした時、番頭に身代を乗っ取られ、物置同然の別棟におとっつあんともども追い出されたのです。ついでにおっかさんも乗っ取られたという答え。
 人情に厚い甚五郎、なんとかこのボロ旅籠を盛り返してやろうと考えました。
 しばし考えた甚五郎はノミを取り出して、こつこつと彫り始めました。やがてできあがったのが、一体のみごとなねずみの彫刻。
「これを入り口においてごらん」
 いわれたとおり、子どもがねずみを置くと、なんと木彫りのねずみがチョロチョロ動き出しました。これを通りがかりの人が見つけて、これまたびっくり。
 あっという間に評判が立ち、「ねずみの旅籠」という観光名所になりました。
 一方、向かいの旅籠は閑古鳥が巣を作っているほど暇になります。主人の非道な仕打ちも知られてしまい、客足もパッタリ止まりました。
 本心から反省しない元番頭はためこんだ資金に物を言わせて反撃に出ました。高名な彫刻家に「甚五郎に負けない彫刻を」と制作を依頼。
 「甚五郎がねずみなら強い動物がいい」
 と単純明快な製作態度で虎の像を彫ったのです。
 これを旅籠の前に置くと、あーら不思議。それまで元気に走り回っていたねずみが、ピタリと動かなくなり、ただの木像に。
 この話を伝え聞いた甚五郎、旅籠にとってかえすとねずみの像に向かい、
 「これ、ねずみ。わしはお前を彫る時に、全身全霊をこめたつもりじゃ。なのに、なぜただの彫り物になる。それほどのできばえとは思えぬ虎なのに」
 これを聞いたねずみ、
「えっ、あれは虎ですか。私はまた猫かと思った」

 おあとがよろしいようで。