感情の流れを共に生きること(メモ5)
このメモを書き始めてから、自分の子どものころの場面が思い浮かぶようになりました。
「障害があっても、当たり前に地域の普通学級へ」ということが、人生のテーマの一つでした。
そのことが、私の人生のテーマになったのは、学校がいい所だからとか、教育や発達が理由ではありませんでした。
たぶん、障害によって分けられることが、「感情の流れをともに生きる家族や友だち」との関係を断ち切られることだという実感があったからだと、いまは分かります。
勉強ができるとかできないとかのその前に、自分の感情の流れが止まってしまったら、「自分」がどこに消えてしまうのかという怖さが、8歳の子どもの心に叩き込まれたものでした。
また、このメモを書き始めてから、何度も思い出すようになったのが、「育ての心」という本でした。
学生のころ、この本のいくつかのエッセイが好きでした。
いま、開いてみると、初版は昭和11年とあります。
私がいま「感情の流れをともに…」という言葉で表現したいものの中身は、子どものころから、そしてこの本に惹かれたころから、ずっと考えていることのようです。
◇
こころもち
子どもは心もちに生きている。
その心もちを汲んでくれる人、
その心もちに触れてくれる人だけが、
子どもにとって有り難い人、うれしい人である。
子どもの心もちは、極めてかすかに、極めて短い。
濃い心もち、久しい心もちは、誰でも見落とさない。
かすかにして短き心もちを見落とさない人だけが、子どもとともにいる人である。
心もちは心もちである。
その原因、理由とは別のことである。
ましてや、その結果とは切り離されることである。
多くの人が、原因や理由をたずねて、
子どもの今の心もちを共感してくれない。
結果がどうなるかを問うて、
今の、此の、心もちを諒察してくれない。
殊に先生という人がそうだ。
その子の今の心もちにのみ、今のその子がある。
◇
廊下で
泣いている子がある。
涙は拭いてやる。
泣いてはいけないという。
なぜ泣くのと尋ねる。
弱虫ねえという。
……随分いろいろのことはいいもし、してやりもするが、
ただ一つしてやらないことがある。
泣かずにいられない心もちへの共感である。
お世話になる先生、
お手数をかける先生、
それは有り難い先生である。
しかし有り難い先生よりも、もっとほしいのはうれしい先生である。
そのうれしい先生はその時々の心もちに共感してくれる先生である。
泣いている子を取り囲んで、
子どもたちが立っている。
何もしない。
何もいわない。
たださもさも悲しそうな顔をして、
友だちの泣いている顔を見ている。
なかには何だかわけも分からず、
自分も泣きそうになっている子さえいる。
(『育ての心(上)』 倉橋惣三 フレーベル館 )
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