今年に入って一度も「エピソード」を書けていません。
もともと「書けない」ことが多いのは分かっていました。
それでも、少しでも言葉にすることで、自分の思い込みに閉じこもらないようにできるんじゃないかと思いました。
でも、しょっちゅう船は沈みかけ、そのたび海底から脱出しなければならず、なかなか文字にする余裕がありません。
11月に四女がホームを出ていきました。
2月には三女が出ていきました。
子どもに出ていかれると、事情はどうあれ、船が沈む気がします。
どうすればよかったのか、後悔だけが浸水してきます。
5人のうち2人に出ていかれると、「そして誰もいなくなった」という言葉が浮かんだりします。
今までも、茨木のり子さんの詩や石川先生の言葉に救われてきましたが、今回は福井達雨さんの言葉が沁みました。
学生の頃、福井先生の講演会や宿泊セミナーに通ったことがあります。
「8歳の私」に、「あのとき、向こう側に行かなくてもよかったんだよ」と、初めて教えてくれた先生です。
◇ ◇ ◇
『僕アホやない人間だ』
「……こんな仕事やめようかと思ってしまうんや」
「ウン、そうか、僕かて同じことや」
「先生でもそうかなあ」
「そうや」
「先生はもっと強く、自信をもってこの仕事をしていると思ったけれどもなあ」
「そんなことあらへん、何時も自信なんかあらへんし、こんな仕事、早ようやめた方がよいと思う時もよくあるんや」
三田先生はちょっと肩をおとして目をつぶった。
・・・・・
私はこんなことを話し始めた。
「へェ、不思議なことやなぁ」
「何が不思議なんです」
「そうやろ、十年以上もこの子供達と共に生活してきた僕がまだどうしても、この子供達の指導に自信がないんや。
毎日失敗ばかりし、反省ばかりしているんや。
子供達を怒らないでもよいのに、自分の精神的なイライラのために子供を怒り、反省するんや。
きたない子供が抱きついてくると、きたないと思い、ついじゃけんになってしまう。
そうやのに、わずか二、三年で自信を失くしたというのはどういうことなんやろ。
十年以上もやっている僕に自信がないのに、二、三年の君に自信がなくなったということは、今まで自信があったということやろうか。
うらやましいなぁ。
しかし君、それは本当は、自信ではなかったのとちがうか。
悲壮感か、思いあがりか、そういう一方的なものを、自信と思っていたのとちがうか。
本当の自信というのは、これから生まれてくるものや。
この仕事はな、自分の一人よがりの自信を、子供によって破られた時から始まるんや。」
「そうかもしれへんな」
「そうなんや、君はな、今、大切な分岐点に立っているのや。」
「どんな分岐点なんですか」
「それはな、この仕事が続けてできるかどうかという分岐点や。…」
『僕アホやない人間だ』福井達雨 柏樹社 1969年
◇
先日、中学を卒業したばかりの子どもに会ってきました。
今度、ホームを見学に来てくれます。
働きながら定時制に通う予定の子どもです。
自信なんかぜんぜんないけど、子どもたちには出会い続けたいと、やっぱり思います。
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