定員内不合格と民主主義の話(その1)
子どもたちの目の前に学校があり、みんながそこに行く。
卒業式はすでに終わり、同級生のみんなは入学式を楽しみにしている。昼間の高校に行くチャンスはこの子には、もうない。
ただ、席の空いている定時制高校が追加の募集を行う。
「まだ進路が見つからない中学生はいませんか」
「ここにまだ空いている席があります」
「あきらめないで受検しませんか」
これが最後のチャンスだから、あきらめないでがんばってと、中学の担任も背中をおしてくれる。
前期、後期、2次募集と3回も不合格を味わった15歳の子にとって、人生最後のチャンスにも思える。
試験科目は、面接と作文のみ。
それは教科の点数だけで判断するのではないという教育本来の自負と善意を示す。
3度つまずいてなお、定時制高校で学びたいという生徒の意欲と希望をすくいあげるためのもの。
「まだ進路が見つからない中学生はいませんか」
「ここにまだ空いている席があります」
「あきらめないで受検しませんか」
「学校の未来には希望がみつかるよ」
数えてみれば20とか、50とか席が空いている。
その席に座り、みんなと一緒に学びを求める子がいる。
受検の日、他には誰もいない。
受験生はこの子一人。
この子には障害故にできないことがある。
テストの点も作文や面接のことばも少ない。
寡黙すぎる子だけれど、ひとつのことばとうなずきに、みんなと一緒に育った年月の学びと成長のよろこびが込められている。
そのすべてをエネルギーに変えて、子どもは4回目の受検に向かう。
「人生で一番のがんばり」と言えるその姿勢は、受検介助の中学の担任が教えてくれた。
「こんなにがんばる姿は初めて見ました」と話してくれる。
合格発表の日。
掲示板に番号はない。
ただ「該当者なし」という文字が、校長の教育的資質の貧困を示す。
「該当者なし」とは、どのような言葉か。
「席が空いているから、募集はしたけれど、あなたはそこには含まれない。」
「あなたは、社会が呼びかけた子どもではない。」
「あなたには、この社会の公立高等学校で学ぶ資格と適正と意欲が認められない。」
「99%の子どもが無償で進学できる学校だけれど、あなた、ではない。」
「まだ席が空いている?ああ、空いているのは事実だけれど、あの机と椅子は使わないことにした。あなたの座る椅子はない。」
「セクハラ罪はない」と言い放つ大臣のいる国で、「定員内不合格罪はない」と未来ある子どもの教育を捨てる校長。
この国には民主主義が足りない。
学校が、民主主義を教えることができないから。
この場合の民主主義とは、多数決や政治的手続きのことでなく、
「他者と共に生きる生き方」を意味する。
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