≪一人に一人分の同級生≫
認知症の人は、自分の名前も分からず、
自分が誰かも分からなくなると思われている。
何も認知できないのだから、
何も感じず、悩むこともないのだと。
それは間違っていると、小澤さんはいう。
【認知の問題として自覚できなくても、
そのたび引き起こされる周囲の言語的、非言語的な困惑や非難、
あるいは否定的感情にさらされ、
それらが蓄積して、周囲に迷惑をかけているらしいこと、
そして「できないこと」がどんどん増えていることを正確に感じ取るようになる。
‥その都度は認知できなくても、
人と人とのつながりから生まれる情動の世界という回路を通って
「自覚できてくる」ことに何の不思議もない。】
(『認知症とは何か』小澤勲)
これは認知症の人についての説明だが、
人が心の内側で何を受けとめ、どう感じていくか、よくわかる。
「呆けたら、何も分からなくなって、何も感じなくなる」と
思うのは間違いなのだ。
「九九が分からない」ということが毎日の生活の中で辛いと、
子どもが「認知」することはないだろう。
なぜなら、子どもの日常で九九は必要ないから。
だけど、「九九が言えない」ことで、
「バカにされ」、「同情され、哀れまれている」「迷惑がられている」としたら、
周囲の人の反応から、それを感じとるだろう。
そして、それを自分の価値だと、子どもが間違うとしたら、
「かわいそう」だと私も思う。
ただし、それは子どもが「できない」ことがかわいそうなのではない。
差別され、偏見にがんじがらめにされ、それを正しいこととして、
受け入れざるを得ない状況に追い込まれることが、かわいそうなのだ。
「できないことがあることは、恥ずかしいことじゃない」
「バカにし、哀れむ周りの人の態度が間違っている」と、
ちゃんと子どもに伝えてあげる人がいないことが、
かわいそうなのだ。
そうしたことを教えてくれる大人が周りにいない子どもたちみんなが、
かわいそうなのだ。
私たちは家族や友人の嬉しかったこと、楽しかったこと、
その喜びや嬉しさをいっしょに喜び合うことができる。
それは、「認知」ではなく、「感情」だろう。
また、辛いこと悲しいことを、一緒に悲しむことも同じ。
それは、個人の能力よりは、人と人との関係の問題だ。
授業で教える「認知的なもの」ではなく、
ただ一緒に暮らす生活の中、
人と人とのつながりの中で、育つものだろう。
だからこそ、私は一人に一人分の同級生がどんなに大事な存在かを思う。
一人に一人分の小学生の6年間という時間、
一人に一人分の中学生の3年間という時間。
一人に一人分の高校生の3年4年という時間。
一度きりの子ども時代を一緒に作るかけがえのない仲間。
一人に一人分の同級生。
「同級生」とは、「やさしさ」とか「思いやり」を意味する言葉ではない。
すきな子、きらいな子、やさしい子、イジワルな子、
すなおな子、乱暴な子、先生の言うことを聞かない子、
全部トータルで一人分の同級生。
小・中・高の学校生活全体のイメージ、それを一人分の同級生という。
それ自体は誰でも当たり前に持っているもので、
特別何かの役にたつというものでもない。
6歳のときからずっと自分と一緒にあったもの。
自分の一部になりきっているもの。
だから、自分がどれほどそれに支えられているかにも気づかずにいる。
そして、それなしの人生の苦労も想像できないのだろう。
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やすハハ
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