トラウマとフルインクル(その75)
《自分自身の声をみつけるために》
【自分自身の声を見つけるためには、体の中にいる必要がある。深呼吸ができて、内部感覚がつかめる状態だ。】
この言葉を読んだとき、「息ができる」という声が聞こえた。
会ったことのない女の子の声。
呼吸器をつけていたから声がなかった女の子の声。
ゆきみちゃんという一年生の女の子の声。
1年生の生活科の最後、大きな木の絵に、「できるようになったこと」を書いた作品があります。
「字がかける」
「お友だちがたくさんできた」
「てつぼうをながくもてる」
「お友だちとパソコンでゲームができる」
「はがきがかける」
「おふろそうじができる」
「たしざんやひきざんができる」
そして、もうひとつ、次の言葉がある。
「わたしはいきができる」
彼女は、生まれてすぐから人工呼吸器をつけていた。
「息ができない」から「呼吸器」をつけている。
そう見られて生きてきた彼女が、地域の小学校のふつう学級に入学して一年。
その間に「できる」ようになったことを考え、「いきができる」と書いた。
その言葉が、彼女にとって、ふつう学級がどんなところだったかを表す言葉だと感じてはいた。
でも、そのことを自分でもよく分からないまま、忘れられない大切な言葉だった。
【自分自身の声を見つけるためには、体の中にいる必要がある。深呼吸ができて、内部感覚がつかめる状態だ。】
この言葉で、またひとつ答えがわかった。
人工呼吸器をつけていても、深呼吸ができて、内部感覚をつかんでいたのは、間違いなく彼女自身なのだ。
自分がどのぐらい主導権を握っているのかという感覚」を、彼女は一年生になり、ふつう学級で30人の仲間と暮らす日々の生活のリズムの中で、「主体感覚」を確かに感じとっていたのだ。
だから、人工呼吸器をつけて暮らす彼女が、「息ができる」と書いたのは、「わたしは、わたしの体の中にいる」と言っていたのだ。
わたしがわたしの体の中にいて、呼吸器の力を借りて、息ができた、
わたしはわたしの体の中にいて、わたしだった。
わたしはみんなの中にいて、わたしだった。
わたしはしあわせだった。
彼女の声はそう言っていたように聞こえる。
一度も会えなかった子どもの言葉に、大切な贈り物をもらい続けている。
◇
《ゆきみちゃんのこと》は2009年のノートで紹介しています。
http://sun.ap.teacup.com/waninatu/564.html
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