「子育ての社会学」 石川憲彦 朝日新聞社1985
33年前の本。
石川先生の最新刊『「精神障害」とはなんだろう』を読んだ後に、久しぶりに昔の本を読み直してみた。
まだ石川先生に出会う前のこと。
あのころ、この本を読んで、何を思っていたのかと、読み返してみた。
【「先生は「いってもきかない、やらせてもわからない子だからしようがない」と無視します。
これをみかねたかつての級友たちは、とうとう教師にくってかかり、教師の指図を無視して、運動会の練習に彼女を引き入れました。
S子さんはその輪の中で皆と練習し始めてから、再びポツリポツリとしゃべるようになりました。
……一人で立ちつくす彼女、喜んで輪に加わる彼女、しゃべれることば以上に、彼女の心の動きを表すことばを、全身で雄弁に語れるのです。
ことばというのは、当人が自己をもっとも素直に表現し、周囲が受けとめる心を持って、初めて生きたものとなります。
このどちらかが破壊された時、その人のことばに遅れが生じるのです。
どんな子供でも、必ず、身から出るもっとも自然なことばをしゃべってくれます。
この表現を大人の求めることばに変化させてやろうと力むほど、ことばはその子にとって遠いものになってゆきます。
すでに表現し、これから表現されるであろうことばを直そうとするよりは、受け取り理解してゆこうとする周囲をつくること。これがことばを育てる正しいやり方でしょう。
この周囲とはいうのは、親だけでなく、より多くの人々である方が、ことばの生き方も違ってきます。】
「ことばの生き方も違ってきます」
33年前、この最後のことばの意味を、私は分からなかったと思います。
(その後、「言語障害児教育」を学んだ時には、こういう教えは一つもありませんでした。「ことばの教室」の教育実習で渡されたのは、「異常児教育実習録」というノートでした。私は「異常児」という文字を塗りつぶして使いましたが、大学に異議を唱えることをしませんでした。後悔の一つです。)
34年前に、ことばを話さなかった子は、今もことばを話しません。
その後に生まれてきたことばを話さない子や、ことばをあまり使わない子と出会い続け、その子供たちの「ことばの生き方」を見せてもらってきました。
「ことばの生き方も違ってきます」という言葉の意味が、33年という時間をかけてようやく私にも分かるようになりました。
私が出会った子どもたちは、一人残らずみんな、石川先生のいう通りでした。
障害があるとかないとか、関係のない話でした。
定時制や適応指導教室でも、一時保護所や援助ホームでも、子どもの「ことば」は、その子だけのことばでした。
「どんな子供でも、必ず、身から出るもっとも自然なことばをしゃべってくれます。」
「すでに表現し、これから表現されるであろうことばを直そうとするよりは、受け取り理解してゆこうとする周囲をつくること。周囲とはいうのは、親だけでなく、より多くの人々である方が、ことばの生き方も違ってきます。」
どんなふうに? それはまた別の日に。
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