≪Q6≫
盲ろう者がしばしば陥る「心の病」には、
どのように対処すればよいのか?
「盲ろう者」についてのQ&Aの中で、
福島さんはこの質問を設定し、自ら答えています。
福島さんにとって、日本の盲ろう者のおかれた環境を考えた時、
このことが、もっとも気がかりな問題なのだということが
迫ってきます。
「福島さんとHide&こうちゃん」というタイトルにして、
私が一番書きたかったことが、
「壁の順番が逆」という話と、
この「心の病にどう対処するか」、ということでした。
というのも、Hide&こうちゃんも、
20歳を過ぎてから、それぞれの事情で、
精神科を受診しています。
二人がかかった精神科医は石川先生でした。
だから、私にとっては、
「コミュニケーションの壁の順番が逆」という話と、
「知的」「自閉」といわれる人の、
「心の病」への対応は、ストレートに結びついています。
知的・自閉といわれる子どもが大人になり、
「心の病」にかかったときに、
どのように医療とつながることができるのか。
精神科医にどういったことを求めるのか。
通訳・介助に何を求めるのか。
それはとても重要なことだと思うのです。
まずは、福島さんの回答を載せてみます。
☆ ☆ ☆
≪Q6≫
盲ろう者がしばしば陥る「心の病」には、
どのように対処すればよいのか?
≪A6≫
これは、きわめて重大な問題である。
前述の「人的サポート」において、
一般的な通訳・介助サービスとは別に、
「心理的ケア」の側面が大切だということである。
「盲ろう」という障害は、それを受けた本人に、
【絶対的な孤独】をもたらす。
盲ろうという障害の本質は、
「見えない」「聞こえない」といった感覚器官の物理的制以上に、
この【絶対的な孤独】によって引き起こされる、
いわば【実存的不安】とでもいうべき、
生活実感の欠如にある、と筆者は考える。
そして、こうした心理的傾向は、
中途盲ろう者において、より顕著にみられるようである。
外出の機会が減り、外部の情報は極端に減少する。
それと並行して、他者との交流は量的にも質的にも貧困となり、
断片的で希薄なコミュニケーションしか交わせなくなっていく……。
こうした状況に置かれた時、多くの盲ろう者は、
ストレスが増大し、内的緊張が高まり、情緒は不安定となる。
自己や他者に対する攻撃性が生まれたり、
自らが描く「幻想」の世界に逃避し、
虚構と現実との境界があいまいになるケースもある。
「引きこもり反応」や「抑うつ状態」等を体験したうえで、
現実感覚が希薄となり、「生きる意味」を喪失する。
そして、最悪の場合は「自殺」を試みるのである。
ここで、さらに、盲ろう者が抱える深刻な問題が浮かび上がる。
それはコミュニケーション障害に起因する
「ケアの困難さ」についてである。
例えば、神経症的状態になったある盲ろう者が
カウンセラーや精神科医と面談しようとしたとき、
面談の手段であると共に、それ自体が治療的効果を持ちうる
「相互のコミュニケーション自体」に、
その盲ろう者は、大きなハンディを抱えているのである。
では、こうした問題にはどのような対処すればよいのだろうか。
基本的には、盲ろう者と心を通わせるコミュニケーションを
日常的に豊かにとることである。
たとえ、コミュニケーションの技術においては、
互いに未熟であってもかまわない。
時間をかけ、ゆったりとした気分の中で、
盲ろう者と言葉を交わす習慣を持ちたい。
それは、何かの用事を済ませる為のコミュニケーション
という意味ではない。
そのコミュニケーション自体を楽しみ、
喜び合うような関係を、
盲ろう者が周囲の人との間に、
築いていけるようにすることである。
そうした取り組みが他者との間に信頼関係を生み出し、
盲ろう者に生きる希望を与えていく。
「生きることの意味」を見失い、
自信を喪失した盲ろう者には、
どのような素晴らしい訓練も、高度な技術を伴うサポートも、
何の力も持たないのである。
・・・・
一般に、精神医療の現場では、
医師と患者との面接に伴う相互コミュニケーションには、
二重の役割があるだろう。
第1は、患者の状態を把握し、
医師が正確な診断を下すうえでの材料になるという役割であり、
第2は、その「相互コミュニケーション」自体が、
いわば、治療行為としての役割をも担っているということである。
ところが、盲ろう者は、多くの場合、
コミュニケーションにハンディを抱えているため、
先にあげた二つの役割のいずれもが
不十分にしか果たせないという問題が生じかねないのである。
そうした意味で、精神医療の現場における
通訳・介助者のサポートは極めて重要であり、
どこまで患者である盲ろう者と医師との
コミュニケーションを豊かに保障するかは、
通訳・介助の力量にかかっている。
以上のことから、盲ろう者に対する、
「心理的ケア」のためには、盲ろう者と身近な他者との間の
相互信頼に基づく豊かなコミュニケーション関係、及び、ピ
ア・カウンセリングの取り組みが重要であろう。
さらに、…通訳・介助者自身に
臨床心理学、及び精神医学に関する基礎的な
研修を施す必要があるのではないかと思う。
☆ ☆ ☆
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