久しぶりの『エピソード』…。
No16を書いたのが1月…。あれから3人がホームを後にし、3人が新しくホームにきました。
ときどき、忘れないようにとエピソードを書きかけたりはするのですが、やはり仕事柄、どこまで書いていいのかと迷います。
でも、何も伝えないと、こういう居場所が足りないということも伝わらないし、私たちが何をしているのか、子どもたちが何を必要としているのかを一緒に考えることもできません。
なので、できるだけ特定の「個人」の話にならないように書いてみたいと思います。
まずホームを「卒業」していった子は2人が18歳、一人が19歳でした。
3人とも事情は違いますがいわゆる虐待に係る保護を通じて、ホームにきました。
そして3人とも高校は中退です。3人とも、高校は卒業したかったと言います。
2人は、ホームができたときに来てくれた「長女」と「次女」としてエピソードを書いた二人です。
16歳、17歳で来た時には、「二十歳までいる」と言っていましたが、18と19で出ていきました。
ここに来た時の「一人で生活すること」への不安は、1年半という時間のなかで「もう大丈夫」に変わっていったのでしょう。
この年齢の半年、一年という時間の豊かさは、本当にまぶしくうらやましい限りです。
私たちがここで何かをしてあげた、ということではありません。
彼女たちは、バイト先を見つけたり、仕事を辞めてのんびりしてたり、また新しい仕事を探したり、ということを自分のペースでやりくりしてきました。
私たちは、その時々の彼女たちの「動くこと」「動けないこと」を、その時々の彼女たちのせいいっぱいの姿として受けとめながら、日々の暮らしを繰り返していただけです。
こういうと何も考えていないようですが、一応、ホームにいられるのは二十歳までとなっているので、残り一年くらいになったら「あと一年だよ」と声をかけようと思っています。
でも、みんなその前に、自分からそれぞれの形で「卒業」していきます。
なので、私たちはまだ「いるだけ」、「一緒にいるだけ」という仕事しか実感がありません。
本来ならしなくていい苦労を幼いときからいっぱい抱えてきた子どもたちに、「いるだけ」の私たちとホームを受けとめてもらって、はじめてこのホームが成り立っているのだと思うようになりました。
家や家族という居場所をなくした子どもたちに、私たちが「居場所」を提供しているのではなく、不本意な形で家を離れた子どもたちが「ここにならいてもいいな」と感じてくれることで、お互いの居場所がここに生まれるのでした。
一人の子どもとの出会いごとに、その子と私たちの居場所が、このホームに生まれている、という感覚です。
◇
そういえば、今年ホームにきた一人がこんなことを言いました。
「施設とかこういう所って、かわいそうな子たちに…してあげるみたいな感じがあるけど、ここは違うんだよね」
また、養護施設からきた15歳の子は、ここにきて数日後、「ここは楽しい。今がいい」と言ってくれました。
本当は楽しいことばかりのはずはありません。
15で養護施設を出て、働いて一人で自立することを迫られているのですから。
初めての仕事も本人にはきつかったようで、二日で辞めることになりました。
たった二日で辞めてしまうことにはかなり葛藤があったようで、「辞めたい…、今までで一番つらい…、なんかわからなくなってきた…、やっぱりやめたくない、まだあんまり行ってないし…、でも…」と迷っていました。
私の娘が高校生の時に「二日でやめた」バイトの話を聞いて、少しほっとしたようでした。
落ち込んでいる彼女に、「初めてなんだから自分に何が合うか、やってみなきゃ分からないよね。」「大丈夫、順調だから」というと、びっくりしたような声で「え、順調? 私がですか?」と言いました。
15でここに来て、2週間でバイトを見つけて、自分で電話して、働いてみて、やっぱり合わないと分かること。それがたとえ二日だけだとしても、私には十分順調だと思えます。
「卒業」していった「次女」は、ここにいた1年3か月のあいだ、実際に仕事をしていた期間は3カ月ほどでした。
それでも、彼女にとってはそれが彼女の順調でした。なぜなら、ホームを出てから半年余り彼女は別人のようにまじめに仕事を続けています。
そういえば、「卒業」した二人は、それぞれ夜中にパトカーに送ってもらって帰ってきたことがあります。
一人は男に追いかけられて保護されて…。
一人は酔っぱらって歩いているところを保護されて…。
以来、ホームの約束事がひとつ増えました(・。・)
「夜中にパトカーで帰ってこないこと」
(卒業した「次女」のことは、http://sun.ap.teacup.com/waninatu/1403.htmlにも書きました。)
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