ワニなつノート

みんなが電車にのっている 09


みんなが電車にのっている 09


みんなが電車にのっている。
わたしもみんなと一緒に電車に乗ってきた。

電車は毎日、
新しい駅にわたしを連れていってくれる。
わたしひとりでは歩いていけないところまで、
みんなと一緒に連れていってくれる。

電車の中では、毎日いろんなことが起こる。
遊んだり、笑ったり、しゃべったり、
楽しいこともいっぱいある。
たまにはいじわるな男の子もいるけど、
助けてくれる子もいる。

途中の駅で降りていく子もいるし、
新しく乗ってくる子もいる。
窓の外には、いつも移り変わる季節がみえた。

わたしはその途中の駅で
最初の誕生日を迎え7歳になった。
友だちもみんなそうだった。
それから8歳の誕生日も、11歳の誕生日も、
15歳の誕生日も、
わたしは、みんなと同じ季節のなかで迎えた。

3年前に一度、みんなで新しい電車に乗り換えた。
新しい電車のなかでも本を読んだり、
話をしたり、遊んだり、ケンカをしたり。
手をつないで笑える日もあれば、
一人で泣いているときもある。

偶然、同じ電車に乗り合わせた仲間と旅を暮らすうち、
「私が乗った電車」はいつしか
「私たちの電車」に変わった。


その旅ももうすぐ終わる。
9年間という子どもの時間が終わろうとしている。

今度はみんな別々の電車に乗ると言う。
特急電車みたいに、それぞれ違う形や色の電車らしい。
一人ずつ、どの電車に乗るか、自分で選んでのるらしい。

私も、みんなが乗り換える電車に乗りたい。
どんな電車かわからないけど、できれば赤い電車がいいな。

また新しく出会う仲間と旅を続けたい。
16歳、17歳、18歳、
みんなの命が一番光り輝く季節に、
わたしも仲間の光り合うなかで旅を続けたい。

乗り換えの駅では、みんなが次々と
15歳の改札を通り抜けていく。

今までみたいに、私もみんなの後をついていく。
私が改札を通ると、ピンポンと音がなって扉が閉まる。

頭の上でスピーカーが言う。
「キップがないとだめですよ」

でも、みんなは何も手に持っていない。

「みんなは?」

みんなは生まれつきキップを持っているという。

「私は?」

スピーカーが繰り返す。
「どうして電車に乗りたいのですか?」
「本当に電車に乗りたいのですか?」

私はうまく答えられない。

どの電車に乗ればいいのか。
電車はどこへ行くのか。
どこを通るのか、私にはまだわからない。

でも、「私たちの電車」から降ろされたら、
わたし一人では、この先には行けない。

どこを通っていくのかわからないけど、
みんなが電車に乗って次の駅に行くのは、
私も知っている。
わたしも電車に乗って、次の駅へ行きたい。

みんな、次の駅へ。
大人になること、へ行くの。
だから、お願い。
わたしも電車に乗せて。



今までこの地で、扉は177回閉められた。

扉を通れたのは86人の子どもたち。
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