友だち障害、あるいは恋愛障害 (2)
06年の暮に、朝日新聞に、
徳永進さんと鶴見俊輔さんの対談がありました。
その中の言葉が、ずっと心に残っています。
(徳永)
医師になって32年。
病院の勤務医をしていた時は
年に40~50人の患者さんを見送りした。
19床の野の花診療所では
1年間に100人ぐらいがなくなっている。
死を覚悟した患者さん、
死はあってはならぬ家族、
安らかな死をと思う医師、看護士、
そこでコミュニケーションをどうするか、
というのは難しい問題です。
(徳永)
私の父は大学の先生だったが、
がんで寝たきりになったある日、
「今日は死なんけどな、誰かそばにおってくれえ」といった。
最後が近づいたとき、好きな酒を吸い飲みで飲ませると
「うまい」といって夜中の2時に亡くなった。
1人で死ぬのはつらいぞ。
お前もこうなるのだぞ、と家族に教えてくれた。
死ぬときは家族でなくても、誰かがそばにいることが大切。
「伝える」のではなく、「伝わる」ということがある。
(鶴見)
カトリックは共有、聖餐式を指す
「コミュニオン」という言葉を大切にする。
最後の晩餐でキリストは、
パンとブドウ酒を弟子に分け、しぐさで意思を伝えた。
これが教会のミサの形になった。
花を持った釈迦の意図を汲みっ取った一人の弟子が、
ほほ笑んだという「粘華微笑」(ねんげみしょう)と同じで、
最後は言葉を超えるんだ。
コミュニケーションの前にコミュニオンがある。
☆ ☆ ☆ ☆
「コミュニケーションの前にコミュニオンがある」
この言葉を、はじめて読んだとき、
自分の中で、なにかが拓ける感じがしました。
私たちの社会は、知的障害や自閉症の人で、
とくに「言葉」を持たない人に対して、
「コミュニケーションの障害がある」と扱います。
でも、そこに「コミュニケーション」が「ない」のは、
子どもに「障害があるから」だけではありません。
「コミュニケーションがない」原因は、
それ以前に「コミュニオンがない」から、ということです。
障害のある子どもたちを、差別し「分離し続けて」きた社会、
「一緒に生活すること」を拒否してきた社会に、
その子たちを含みこんだコミュニケーションは生まれません。
「障害のあるふつうの子ども」を含み込んだ
「コミュニオン」がないのだから、
「その子たちを含みこんだコミュニケーション」が
生まれるはずがなかったのです。
最初からこの社会に、「コミュニケーション」がないから、
「コミュニケーション」できないのです。
それを、一方的に子どもの障害にせいにしてきたのが、
この社会の歴史です。
多くの人は、その子どもとコミュニケーションできなくても、
特には困りませんでした。
そもそも障害のあるふつうの子どもであれ、
障害のないふつうの子どもであれ、
「子ども」と真剣にコミュニケーションしたいと
考える大人が少なすぎたのでしょう。
その子と、どうしても話したい人、
その子の気持ちを分かりたい人、
その子と一緒に生きていきたい人たちは、
なんとか「コミュニケーション」の手立てを手にしたいと考えます。
子どもも一生懸命、思いを伝えたいとがんばります。
自閉症の人に感情がないとか、
人の感情が分からないとか、
そんなことはぜんぶ嘘でした。
ただ、コミュニケーションの種類の乏しい社会に生まれたために、
子どもたちは、「コミュニケーション」するための方法を、
いつも自分一人で手探りするしかありませんでした。
同じ苦労をしながらコミュニケーションのスキルを手にいれた
「先輩」がいたとしても、その存在を誰も知りません。
だから、子どもはいつも、歴史で初めての苦労を、
一人でしなければなりませんでした。
障害のない人たちは、何万年もの歴史をかけて
引き継いできた言葉のコミュニケーションを、
ただ赤ちゃんとして、その社会に育つだけで手に入れられるのに。
それ以外の手段、工夫を必要とする人たちと、
一緒に社会を作る歴史がないばっかりに、
子どもたちは繰り返し苦労しているのです。
毎年、生まれてくる子どもたちに、
「コミュニケーションの障害」があると見なし、
障害と名付け、しかも子どもの時から、分離しておく。
そんな社会に、その子たちとのコミュニケーションは、
いつまでたっても生まれるはずがありません。
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