ホームNの12年。さて、何を話そうかと考えている時、声が聞こえた。
「私はやさしくないことに気がつきました」
誰の声だっけ? あ、老人介護の新人さんの声だ。
といっても、会ったことはない。「シンクロと自由」という本の声。
◆
《おばあさんに呼ばれ部屋に行くと、「出ていけ」と言われる。
おしっこかと尋ねると「そうよ」と言う。
トイレに行くと「ここじゃない」と怒る。
部屋に戻ると「おしっこ」。
またトイレに行くと「何でこんなところへ連れてきた」と怒る。
これが朝まで続く、初めての夜勤。》
その朝の申し送りで、新人さんが言う。
「私は自分がやさしくないことに気がつきました」
「私は自分が気の長い人間だと思っていたのですが、そうでないことも分かりました」
◆
そう、これ!
老人介護と若者とのつきあいはぜんぜん違う。
でも、私がやってこれたのも、「自分がやさしくないこと」に気づけたからだったな。