委ねる守り (おばあちゃんの湯呑み編)
ちょっと前に紹介した、
「おばあちゃんが、ぼけた」(村瀬孝生)の一節。
□ ■ □
トメさんは居眠りの最中。
手にはお茶の入った湯呑みが握られている。
こくり、こくり、と舟をこぐトメさんのからだは
じょじょに左へと傾き始める。
手に握られた湯呑みも同時に傾き始める。
これはいつもの光景である。
トメさんは居眠りしながらお茶をこぼす。
このままだとお茶はこぼれるに違いない。
そう判断したぼくは、
トメさんの湯呑みを取ろうとした。
するとトメさん、パッチリ目を覚まし
「何するとなぁ~」と激しく抵抗。
「お茶がこぼれそうなんです」
ぼくの声は届かない。
もみ合った末、湯呑みのお茶は
辺り一面に飛び散って終わった。
…
ぼくらは、トメさんがお茶をこぼすまで待つことにした。
お茶がこぼれるとトメさんは大慌て。
そこにタオルを持ってぼくたちが登場。
すると「すんまっしぇんなぁ」と言いながら
一緒に床を拭く。
□ ■ □
何度、読んでもいいなあ~~~(^。^)y-.。o○
30歳の息子にGPSの話を聞いた翌日、
ふと「委ねる守り・委ねられない守り」
という言葉が浮かびました。
Nさんとは、小学校、中学校、浪人、高校と、
いつも子どもの気持ちを一番に考えてきたはずなのに、
どうしてGPSでお迎えなのか。
私にはどうしても分かりませんでした。
私たちはずっと、
学校の先生や介助者、教育委員会に言ってきました。
「この子を、クラスの一員として、
他の子どもと同じようにあつかってほしい」
「障害のために、同じようにできないことはあるけれど、
それでもやっぱり同じ年齢の子どもと
同じようにつきあってほしい」
それなのに、子どもが学校を終えたとたん、
他の子と同じように扱わないのが、親だなんて、
子どもは悲しいだろうなと思うのです。
現実に、岩橋さんのように
支援してくれる人は、そうはいません。
絶滅種のような存在でしょう。
私は口だけだから、実際に、
九州や北海道まで迎えになんかいきません(・。・;
ぜぇったい行きません(>_<)
でも、だからといって、
「まだそういう環境ができていないから…」
「体制ができていないから…。人手がないから…」
そう言ってしまえば、
それは、学校の先生が、
「普通学級じゃこの子は見れない」
というときの言い訳と同じです。
私たちは、「委ねる守り」を目指してきました。
親が子どもを抱え、誰にも委ねられないというのではなく、
子どもたちを信じ、先生たちを信じ、
委ねることで子どもの成長を
見守ってきたのではなかったのか。
「委ねる守り」
この言葉の説明で大丈夫かなと考えているときに、
「おばあちゃんの湯呑み」が浮かびました。
介護も、守りの一つです。
ぼけたおばあちゃんやおじいちゃんが、
不自由な身体や、ぼけた頭でも、
安心して暮らせるように「守りたい」気持ち。
自分よりも弱いものを守るという意味だけではなく、
敬意をもって守るのだと思います。
そう、大切なもの、大切な者を守るという思いです。
だから、「委ねる守り」は、
子どもにも、おばあちゃんにも、
同じように当てはまらないと、
何か抜け落ちているものがあるかもしれません。
湯呑みが傾き、おばあちゃんがお茶をこぼすまで、
見守ること。
それは、何に何を「委ねて」「守っている」のだろうと、
考えてみました。
それは、おばあちゃんに敬意をもって、
おばあちゃんの人生をおばあちゃん自身に委ねているのでした。
たかが、湯呑みひとつの傾きです。
でも、おばあちゃんにとって、
それは生きている日々の生活の中の、大事な営みです。
その具体的な一つ一つの場面を通して、
周りの人間と関わること、その関係こそが、
おばあちゃんがぼけたまま主体的に生きているのです。
だから、やはりそのやり方こそが、
本人の人生を本人に委ねることになっているのだと思います。
「委ねる守り」は、介護のなかでも、
私たちが安心できる「ことば」だと思います。
それは、相手を信じていなければできません。
おばあちゃんが、ぼけた姿で、
自分の人生を生きていることを、信じること。
受けとめることでした。
「おばあちゃんは、いまも自分の人生を、
誇りを持って生きているんですね」
そういう気持ちがなければ、
本人に委ねようなどと思わないでしょう。
(つづく)
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