「良太くん、これ運んでくれるかなー」
良太がふりむくと、先生が机の上の給食を指さしている。
「いいよー。どこに持ってくの? うしろ? 翔のとこ?」
「あっ、ちがうの。職員室、職員室に持っていってくれるかな」
先生が早口で言う。
「えー、遠いー」
「何言ってるの、そんなに遠くないでしょ。お願いね。教頭先生が待ってるから」
そう言って先生が牛乳ビンをとって横にする。
「落とさないでね」
「そんなドジじゃないや」
小さい声でつぶやく。
「いってきまーす」
廊下に出ると、となりの教室も、その隣もいい匂いがする。誰もいない廊下にお昼の放送が響いている。クリームシチューか、まあまあだな。でもこのリンゴのうさぎはしょぼい。…でもこれ、誰の分だろ?
「教頭センセー、きたよー」
「はいはい。ご苦労さま。ここでいいですよ」
教頭先生の机には一人分置いてある。二人分、食べるのかな。良太は教頭先生のお腹をちらっとみた。職員室を出るとき、翔とすれちがった。めずらしく保健室のおばちゃんが翔ちゃんの車椅子を押している。いつもは触りたがらないのに…。良太はこの先生が苦手だ。
翔、具合悪いのかな。もう帰るのかな。そういえば、ちょっと元気なかったかなぁ。
そう思いながら教室に戻ると、みんなはもう食べ始めていた。
「どこ行ってたの?」
啓がパンをかじりながら聞く。
「職員室」
「へえ、なんか怒られたの?」
「違うよ。先生に頼まれて運んでたんだ。それなのに先に食べるなんて、冷たいよなあ」
ふと、後ろをみると、翔の席だけぽつんと空いていた。給食もなかった。
やっぱり、帰っちゃったのかな。
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