《伊織くんと栞音さんとあーちゃんさきちゃんが教えてくれたこと》(その4)
《この子を守ってきたもの》
この子を守ってきたものは何だったか。
この子と私を、守ってきたものは何だったか。
確かなものは、この子と私の、つながりのなかにあった。
この子と私が出会う、つながりの中にあった。
そして、この子は守られてきただけでもない。
そのことが、この子の揺るがない何かに、つながっている。
あきらめることなく受検に向かう子どもたちに、共通しているもの。
《綱渡り》
初めは綱渡りだった。
保育園にも「定員内不合格」はある。
小学校にも中学校にも「定員内不合格」はある。
途中で、あきらめる人もいる。裁判所でさえ子どもの味方をしない。
だから、他を「選ぶ」人が膨れ上がる。
子どもが「あきらめる」のではない。
親の選んだ道しか、幼い子どもは歩けない。
初めは綱渡りだった。
「私」にも、「どうしよう」があった。
「大丈夫かな」があった。
「友だち、できるかな」
「ひとりぼっちでさびしい思いをしないかな」
綱渡りだったのは、この子じゃない。
綱渡りだったのは、わたし。
そう、この子は初めから綱渡りじゃなかった。
この子は初めから、仲間と一緒に新しい海へ漕ぎ出していた。
《新しい地図》
この子の強さと自信はどこから?
この子の信頼と希望はどこから?
この子を守ってきたものは何?
この子の支えと自信の拠り所は?
この子の折れないもの。
この子が、「定員内不合格」によって奪われないものは何か。
「できる・できない」という綱渡りの自信ではない。
新しい海をいく仲間とのつながりに基づく自信。
初めから用意された道ではなかった。
この子は守られてきただけじゃない。
自分との調整。
仲間との調整。
調整、調整、そして調整という波を乗り越えてきた自分と仲間への信頼に基づく自信。
この子がこれまでに蓄えた力はどれも「相互性」を通して手に入れたものばかり。
安全に、自由に、自分の感覚で学ぶ体験によってこの子は、自分の新しい地図をつくってきた。
いつから?
…5歳のまなちゃんやさきちゃんたちの声がする。
「さとうさん、大丈夫って言っじゃない」
「お母さんも大丈夫って、言ってた」
「そしたら、ほんとに大丈夫だった。いままで、ずっと大丈夫だった」
「だから、いまも大丈夫」
「ね、そうでしょ」
「だから、わたし、高校に行く」
そうだった、6歳のあの日からこの子は「行ってきます」と出かけていった。
学校に着くと「バイバイ」と私に手をふった。
この子と、この子の出会いを信じて私は送り出してきた。
泣いて帰る日もある。転んで帰る日もある。
歌いながら笑顔で帰る日もある。
私はおかえりなさいと迎える。
あなたがここにいる、生きていてくれる。
※(3月24日)・・・伊織くん「定員内不合格」。
あーちゃんの4浪と、伊織くんの3浪が決まる。
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