ワニなつノート

《伊織くんと栞音さんとあーちゃんさきちゃんが教えてくれたこと》(その3)


《伊織くんと栞音さんとあーちゃんさきちゃんが教えてくれたこと》(その3)




《まなちゃんとれいこちゃんの声》


9年前の5月。小さなメモをもらう。
「佐藤さんへ 高校に行きたいのでおてつだいして下さい。まなみより」。

11月。「高校には行かない」と言う。がんばったけどテストの点が取れないから。小さなまなちゃんが、さらに小さく消えそうだった。

「高校に行く行かないは、まなちゃんが自分で決めることだけど、もしも、もしも、不合格になると私たちががっかりすると思っているなら、それは心配しなくていいんだよ」
私がそう話しかけたとき、まなちゃんが見ていたのは、周りの大人が笑顔でうなずく姿だった。

2月。定員内不合格。まなちゃんはうつむかず、消えそうにもならず、次の受検に向かった。


9年後。「高校に行かない」と言ったあの日のことを、まなちゃんに聞いてみた。
まなちゃんは覚えていなかった。それよりも、高校生活がどんなに楽しかったかを、笑顔で話してくれた。その日のビールはまなちゃんのおごりだった。



高校に行きたいのは出会うため。
学びたいのは出会うため。
入試を受けるのは出会うため。
私はここにいると伝え、出会い、つながるため。


どんなに「いない」ように扱われようと。
「意思なき者」のように間違われようと。
この子は、ここにいる。

たとえ定員内不合格でも、「いまここ」に「いること」をなしにはできない。


定員内不合格という理不尽な評価より、この子は家族が悲しみ、怒り、憎しみにつかまることに痛む。

れいこちゃんの声が聞こえる。「おかあさん、ごめんなさい」。
定員内不合格にされたあと、車の中で謝り続けたれいこちゃんの声が聞こえる。
私のせいで泣かないで。私のことで怒らないで。憎まないで。私は大丈夫だから。


定員内不合格で、この子をいないことにしたい人もいる。
でも入試で出会える人もいる。
この子とのいまここを共有する人もいる。

伊織くんの「『おっきいがっこう、ぜったいいく!』という言葉。

栞音さんの「くやしくない」という言葉。

あーちゃんの「わたし、学校通いたい」という言葉。

さきちゃんの「中学がんばったので、高校でも勉強がんばりたいと思います」という言葉。


みんなの受検に向かう姿勢。
《…なんで、また傷つけられにいかなきゃいけないのかなぁって、それも本人には伝えた上で、受けるんだって。》



「なにもできない」無力さから、私が怒りと憎しみに囚われるとき、希望に向かうこの子の声がきこえる。憎しみに縛られて、いまここにいる私を見失わないでね。わたしはいまここにいる。

ここで出会えてよかった。この子は確かに伝えてくれる。
人生に学びのない時間などない。出会いのない場所はない。
だから、私もこの子たちについていく。いまここを受け止め、いまを生きる。


校長の過ちを、この子が自分の恥と間違わないように。
この子が、自分で何かを選びつかみとるために、何度でも向かう姿に私も向き合う。

この子の人生で、この子がぶつかるものに、一緒に向き合える時間。
結果が何であれ、自分の失敗でも、校長の偏見でも、災害や不可抗力でも。この子の「いまここ」を一緒に生きる味方でいたい。



一年後。れいこちゃんの言葉。
「お母さん、高校生にしてくれてありがとう」。
定員内不合格にされたときは「お母さん、ごめんなさい」。
合格したら「お母さん、ありがとう」。

子どもたちは、合格であれ不合格であれ、大切な人と「いまここ」にいる。
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