かわいい子には普通学級を旅させよ
旅から帰った若者たち(その1)
今回の集会に向けて、高校生とOBたちにアンケートをお願いしました。
50人ほどの返信がありました。
今回の集会をやって一番よかったのは、このアンケートだと思います。
アンケートの一枚一枚、一言ひとこと、一文字一文字から、それぞれの物語が広がる感じがします。
何度読んでもわくわくします。
十代、二十代、三十代のひとりひとりの人生の物語の真ん中に、「ふつう学級」があり、「ふつう高校」が透けてみえるのです。
たとえば、れーこちゃんのアンケート。
①【今の様子を教えてください。(お仕事、趣味、好きなこと など)】
いえでビン、かん、かみのリサイクルのおしごとしてます。
ひなたぼっこで押し花をやっています。
大好きな音楽をきく。
かいものをする。
ドライブをすること。
②【高校生活で一番よかったことを教えてください。】
ごうかくしたこと。
高校でおともだちが出きたこと。
のみものを買ったこと。
おべんとうをたべたこと。
先生とおはなししたこと。
文化さいをやったこと。
れーこちゃんは27歳。
いまも高校のある町に行くと、学校を見たいと言い、先生や友だちの名前がいまも会話の中に出て来るそうです。
会で初めてつくった『千葉県の統合教育』に、小学校1年生のれーこちゃんのお母さんの手記があります。
「…1才半健診で意味のある言葉が出ていないということで月一回の言語教室へ通い、2才半で通所施設に通い始めました。
4才の春の面談で、「れいこちゃんが人との関わりができないから幼稚園はまだ無理」という言葉を押し切って、幼稚園へ通うことを決心しました。……」
「(小1の6月ころ…) 帰り道、れいこが大好きなしんすけくんを追いかけてくっついて行くと、「れいこがきた!」と言ってしんすけくんと一緒の二人の男の子が逃げるのです。
それでもしつこく追いかけるれいこを振りきって逃げると、今度は追いかけてこないのを気にしはじめ、向こうの方で立ち止ってれいこを待っているのです。
それから「れいこー、早くこいよー」と呼んだりして、公園に来るととうとう寄り道して一緒に遊び始めました。
男の子たちが帰る時、今度は「れいこ 帰るぞ!」「傘、忘れちゃダメだよ」なんて声をかけるのです。なんと微笑ましい子どもたちの関わりでしょう。
「人と関わることができない」なんてことは、人とどんどん関わることで上手になるものだって、つくづく思います。」
(『千葉県の統合教育』 1993年 共に育つ教育を進める千葉県連絡会)
◇
れーこちゃんは一年浪人生活をして高校生になりました。
一年目、大幅に定員が空いている中、不合格にされたれいこちゃんは、帰り道ずっとお母さんにごめんなさいと謝っていました。
泣いている母親をみて、高校に落ちたのは自分が悪いからだと思うしかなかったのでしょう。
その日の県教委との話し合いの最後に、私は指導課の担当者に言いました。
「れいこちゃんはこれ以上がんばれないくらいにがんばって何度も受験した。
定員が大幅に空いている現状で、れいこちゃんが落とされる理由はひとつもない。
でも、れいこちゃんは、不合格になったのは自分が悪いと間違えて、お母さんに謝っている。
だから、県教委の担当者としてきちんとれいこちゃんに説明してあげてほしい。
定員内で不合格になったのはれいこちゃんのせいではない。
校長が間違っているのだと。ちゃんと説明してあげてほしい。」
あの時の担当の人は温かい人だったのだと思います。
何時間も私たちの怒りと抗議を受けたあとに、れいこちゃんのところにいって、「れいこちゃんはよくがんばった…」「合格できなかったのは残念だったけどまたがんばってほしい…」
…そんなことを語りかけてくれました。
それまでずっと落ち込んで泣いていたれいこちゃんが、そのときはにこっと笑ってその人と握手しました。
私は、みんなを高校生にしてあげられなかった悔しさと自分の無力さのなかで、れいこちゃんのあのやさしさと笑顔に救われている自分が、また情けなくて申し訳なくて、ひとりで苛立っていた気持ちを、いまも昨日のことのように覚えています。
それでも、小学校、中学校、浪人、高校と、みんなと一緒に育ちあってきたことが、彼女の人生の真ん中を生きる自信を支えているといまは思えます。
ふつう学級のよさは、学校が終わってからのほうがよく分かる、という言葉は、「この子の人生のど真ん中をじゃましなくてよかった」、という実感のような気がします。
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