(二十六)
「何や、革命って?」
取調べをした刑事がおれに言った。
「はあ?」
「『はあ』じゃないよ、おまえ、散々喚(わめ)いてたやないか」
その男は刑事というより冴えない下級の公務員といった風貌だった
が、与えられた権力をここぞとばかりに行使した。そもそもその権
力に相応しい人格ってあるのだろうか。彼等も与えられた身分を仕
方なく演じているだけなのだ。国民の生活を守る警官である前に自
分の生活を守る公務員なのだ。
「何か言え、こら!」
「・・・」
おれは駆けつけた警官等に捕り押さえられた時、全く覚えていない
が「革命」という言葉を何度も叫んでいたらしい。
「親父、どうなりました?」
「何や知らんのか、元気にしてはるで」
「えっ!」
親父は取立て人達の執拗な脅迫に怯えて防刃チョッキを着用してい
たのでおれのサバイバルナイフの侵入を阻むことができた。ナイフ
は突き刺さらずにズレて親父の左腕を傷つけたが大した怪我ではな
かったらしい。
「防刃チョッキ?」
おれは親父がそんなものを着ているとは思わなかった。
「おまえはお父さんに助けられたんや。もしお父さんが防刃チョッ
キを着けてなかったらおまえ殺人者やで。それも尊属殺人いうたら
昔やったら死刑やぞ。お父さんに感謝せんかい、バカもん」
おれは殺人の意思を認めていたので少年院送りとなったが、それで
も親父が減刑嘆願を申し出たので床に根が生える前に出ることがで
きた。ただ、「革命」の説明を諄(くど)く求められたが、公務員如
きに「革命」の意味が理解されるとは思わなかったので、おれは決
して口を割らなかった。
【完】