(十一)
経験の浅い船乗りが海上で船酔いをすると、それを治す為に自ら
の男性自身を刺激して自慰を行い船酔いを克服すると聞いたことが
あるが、その為に船室には必ずエロ本が置いてあると云う。東京と
いう人の荒海で、人々が迷いを断ち自分自身を回復する為にひたす
ら愛を求めるのも理解できなくもない。人間から性欲を奪えば社会
はきっと成り立たなくなるに違いない。社会の中のあらゆる関係が
性的関係から演繹されるとすれば、ホームレスやニートと呼ばれる
社会弱者などは、自由恋愛の社会の中で異性との性的関係を上手く
築けない性的弱者で、社会が幾ら経済的な救済を試みても失敗する
だろう。彼等の社会性を高めるには、何よりも男性として或いは女
性としての自信を高めることが重要なのではないか。それにはまず
異性との交流によって社会性を取り戻し、その社会性で自己を見つ
め直すことが良いのではないか?
社会は人と人との「共生」で成り立っている、それ以外有り得な
い。社会が彼等を見捨てる時、彼等も同時に社会を見棄てる。しか
し幾ら彼等が社会との関わりを断って自己を閉ざしても、人間は、
否、生物は性本能によって異性(異生)に自己を開かねばならない。
その異性との関わりが失った社会性を目覚めさせるのではないか。
船乗りの自慰は船酔いから覚めさせてくれるが、ホームレスの自慰
は自己本位で益々社会から遠ざかっていく。つまり、「若い根っ子
の会」と「赤線」を復活させるべきだ!
かつてヤッチャバ(秋葉原)で大勢の人を殺傷した男はメールに自
らの切実な性的不遇を嘆いていたが、おそらく彼は異性との関わり
を上手く持てなくて、そのことが彼をズレさせるきっかけになった
のではないか?社会は論理でなんかで創られていない。社会は理性
から見れば不条理な本能によって出来ている。人が人を蔑むのも残
念ながら本能だ、だから理解していても「いじめ」は止まない。彼
は社会との本能的な繋がりを取り戻せなかった。ただ携帯の掲示板
への書き込みだけが唯一の社会との繋がりだったが、拒絶されたと
思った時、頼るべき世界を失い、バーチャルの世界を飛び出してリ
アルの世界に仕返しをした。いずれにせよ、我々社会的弱者と呼ば
れる者にとって社会的な不満よりも、もっと切実なことは異性(社
会)との関わりを失うことなんだ。はっきり言うと「女とやりてぇ
んだよ!」というのが彼の本音じゃなかったのか?
(つづく)