「世界限界論」
アメリカ大統領選挙の予備選挙が始まって、民主党の本命と目されて
いたヒラリー・クリントンは、自らを「民主社会主義者」と公言して憚
らないバーニー・サンダース上院議員が若者たちの支持を得て躍進した
ことによって、初戦のアイオワ州では僅差で勝利したものの、続くニュ
ーハンプシャー州では敗れて思わぬ苦戦を強いられている。いまや世界
経済はグローバル化によって余白を埋め尽くされフロンティアを失った
近代資本主義は停滞を余儀なくして、ひとりアメリカだけがITイノベ
ーションがもたらした「アメリカン・ドリーム」に酔い痴れているもの
とばかり思っていたが、そもそもIT技術とはこれまで労働が担ってき
た情報伝達手段を省力化させて情報産業から労働者を追い出し、代わっ
てIT利権に与るごく少数の者だけが巨万の富を手にしたが、一方で大
多数は仕事を失い今をどうするかに悩まされて、いつかの夢を追い求め
る余裕などないのかもしれない。それはわが国における経済格差問題と
同じで、否たぶんそれ以上に違いないが、すでに近代文明が産み出す夢
も底を突き「アメリカン・ドリーム」から覚めた若者たちが政治に対し
て「寡なきを患えずして、均しからずを患う」声が上がるのは自由の国
アメリカと雖も「世界限界論」の下では至極当然のことだと思う。否、
それどころか「世界限界論」、それは近代科学文明のグローバル化がも
たらす人口爆発、それに伴って生じる資源枯渇や環境破壊などの限界が
グローバル化して、まず近代科学文明の総本山であるアメリカこそが最
大の影響を被るのは明白である。70億の人間が近代的な生活を望むには
地球はあまりにも小さすぎるか、或いは我々が大き過ぎるか多過ぎるの
だ。つまり「世界限界論」とは地球の限界がもたらす「成長の限界」で
あり、経済成長の限界とは資本主義経済の限界であり、それは取りも直
さず「アメリカン・ドリームの終焉」に他ならない。
(つづく)