(七十六)
百年に一度の経済危機だと言いながら、経済対策は先送りにし
ても三年後の消費税の増税を閣議決定するというトンチンカンな
政府の対応に呆れ果てて居ると、評論家たちが強(あなが)ち否
定的でない事に驚いた。中には良く言ったと賛同する者までいた
が、それじゃあ百年に一度の経済危機をどうやって三年で立て直
すのかを先に示すべきだ。船が沈みかけているのに、こんな時の
為に保険に入っておくべきだと勧誘されているようで、まずは無
事に船を岸に着けろと言いたくなる。日本の経済は外需依存で、
もっと言えばアメリカ頼みの経済で、つまりアメリカが立ち直ら
なければ、日本の景気回復などありえないにもかかわらず、アホ
ウ総理は日本がどの国よりも早く経済回復すると言い放った。ど
うやって?この国の総理大臣は言ったことの責任を負うべきだ。
かつて小泉元総理は、国民の政治不信に対して自民党を変える、
もし変わらなければ自民党をぶっ壊す!とまで言いながら、自民
党って変わった?それとも自民党はぶっ壊された?安倍元総理は
消えた年金を一年で片付けると言ったが、年金問題は解決した?
福田元総理は2009年より道路特定財源を一般財源化すると言
ったが、ホントにそうなってるの?いったいこの国の国民は何時
までこんなデタラメな大本営発表に付き合っているのだろう。如
何なる国家の政治もその責任を負わされるのは国民である。北朝
鮮のような独裁体制にしても権力を支配者に預けた責任は国民に
ある。政治家に権力を与えてその責任を政治家に問うている限り
、いくら首相を取り替えてもこの国の政治が変わることはないだ
ろう。忘れては為らないのは、如何なる独裁国家にしろその主権
は国民にある。政治を変えることが出来るのは、北朝鮮にしろ日
本にしろ、そしてオバマを選んだアメリカにしろ、その責任を嫌
でも負わされる主権者たる国民だけなのだ。もっとハッキリ言え
ば、この国の政治が誤っているとすれば、そんな政治を選らんだ
我々主権者の誤りなのだ。
「ネット繋がったよ、そして、明けおめ。」
バロックとのネットが繋がった。そこには廃村といっても数人の
老人が終の棲家として暮らしていたので電話回線はまだ繋がって
いた。バロックは朽ちた廃屋を借りて自らリフォームして住んで
いたが、ただ電話を繋ぐのに随分手こずったらしい。NTTは後
数年もすれば老人達も居なくなって本当の廃村になり、面倒が減
ると算段をしていたようで、何度も「本当に此処に住むのですか
?」と聞いてきたらしい。考えてみれば、我々の文化的な暮らし
とは、生活の根本を電気やガスや水道といったライフラインに繋
がれていて、ひとたび社会から弾かれた途端に、糸を切られた
操り人形のように、自分の力で立つことも出来なくなってしまう
のだ。やがて操り人間からは自由や正義などといった情熱なし
では生まれない意志すら退化して、自動制御された快適な空調
のマンションの檻の中で、南米ギニア高地の自然から人間の脳
細胞の仕組みまで映してくれるテレビの擬似知識によって世界
を知った気になって物分りの良い知識人を気取り、ただ目の前
の欲望を満たすことだけが生きる歓びだと思うに違いない。私も
もちろん現代社会のインフラの整った暮らしに洗脳も洗身もされ
てしまい、何もそんな時代に逆行した僻地で暮らさなくてもいい
のにという思いと、自ら操り糸を断ち切って山の中に逃げ込んだ
バロックを羨ましいという思いに心の中は振り子の様に揺れなが
ら、テレビ受像機が映すギニア高地の大自然の中で、若い女性レ
ポーターが恐らくは排便も思いに任せない不便な世界を、笑顔で
伝える美しい映像を寝転んで見ていた。ただ私は生きる情熱のエ
ントロピーがなし崩しに増大していくことに虚しさを覚えていた。
(つづく)