雪が降る。烏は飛び去り、道は白く染まった。
歩きたくて傘をさして家を出る。さて困った。どこへも行くところがない。
焼酎を買いに行くことにした。
家庭の事情で職を失っている。一日が夢心地に過ぎてゆく。夜が明ける。湯を沸かす。洗面室に行く。鏡の中の顔。
たえられない昨夜、焼酎を飲み干した。最後の一杯は明日から禁酒するのだからと、いつもより多く呑んだのだ。これで明日から呑むのをやめよう。そのためには飲み干さなくてはならない。なぜ明日に残っていては禁酒ができないかがわからない。それができないというのは吝嗇の小心者だからであろう。
どうしようもないわたしが歩いている。
まっすぐな道をうつむいて歩く。
屋敷の前をとおる。大きなけや木を見上げる。けや木が上を向けと言っているようだ。けやきに手を合わせた。