2002年 の今日(1月29日)は、ブッシュ米大統領が、北朝鮮・イラク・イランを「悪の枢軸」と発言した日。
2002年の今日(1月29日)、米国のジョージ・ブッシュ大統領は、一般教書演説の中で反テロ対策の標的として、北朝鮮(民主主義共和国)・イラン・イラクの3ヶ国を名指しして、「悪の枢軸(すうじく) (英語では「axis of evil」)」と総称して批判し、これら3国は大量破壊兵器を保有し、世界に脅威を与えるテロ支援国家であるとした。
この教書での「悪の枢軸」という表現は、ウィンストン・チャーチルが、第二次世界大戦時にアメリカ、イギリスなど連合国と戦った大日本帝国、ドイツ、イタリア王国、ブルガリアなどで構成する諸国を指して使用した「枢軸国」と、冷戦中にロナルド・レーガンによって当時のソ連を指して使われた表現である「悪の帝国」からの引用を組み合わせたものと見られる。
しかし、3国が軍事協定の類いを結んだ様子もない事から(枢軸国と呼ぶのはおかしい。これらの言葉には、「民主主義と平和の敵。危険な国家」を象徴する意味合いで使われているようだ。
しかし、この「悪の枢軸」発言は、世界的に大きな波紋を広げ、NATO(北大西洋条約)を介して同盟関係にあるはずの欧州諸国の外相からも「乱暴な言い方だ」等と苦言を呈された他、中国、韓国やロシアも反発。非難された国々は、大国の「挑発的かつ、侮辱性的な発言」であるとして、反駁(はんばく)、北朝鮮などが態度を硬化させる原因にもなった。
イラクは、その後拒否していた国連の兵器査察も受け入れるが、査察では、大量破壊兵器など発見はされなかった。しかし、2003年3月20日、ブッシュ大統領は、イラクが大量破壊兵器を廃棄せず保有し続けているという大義名分をかかげて、国連安保理決議1441を根拠として一方的にイラク攻撃を開始した。攻撃はアメリカ軍が主力であり、イギリス軍がこれに加わった。そして、4月9日、バグダッドは陥落し、5月2日にはアメリカのブッシュ大統領が大規模戦闘終結宣言(開始から44日目。戦争終結ではない)を出した。
フセインは、逮捕され、2006年11月5日 イラク高等法廷にて人道に対する罪として死刑判決を受け、12月26日 同法廷にて1審死刑判決が控訴審で支持され、死刑確定。 その4日後の12月30日 絞首による死刑が執行され刑死した。しかし、その後も、イラク武装勢力によるアメリカ軍、イラク新政府への抵抗が続いており、未だに、戦闘状態は終了せず、多くのイラク市民、米兵に死者を出しており、「ベトナムの悪夢の再現」が心配されだしている。日本も戦闘終結宣言後、イラクの復興援助を理由に派遣していた自衛隊は、空軍以外は、引き上げてきたが、何時、全面撤去ができるかは、不透明である。
元来アラブ民族主義の申し子であったサダム・フセインは、大統領に就任した後、イスラム教を掲げて政治に乗り出そうとする勢力を政権の脅威と見なして弾圧し、南部のシーア派地域を中心に高まりを見せていたイスラム主義(イスラム原理主義)の動きを弾圧、多くのシーア派法学者(イスラム聖職者)が逮捕、殺害、国外追放の処分を受けた。クルド人の自治運動にも敵対的な姿勢で臨み、その活動を妨害した。反対派への粛清、それによる恐怖政治、クルド人に対する弾圧から国外的にはアドルフ・ヒトラーなど同様の独裁者として恐れられた。しかし、国内的には政治・経済が安定し、その統治に国民はやがて慣れ安住していった。
ただし、その後、アメリカとの対立姿勢を明確にした後は、キリスト教社会との対決を訴え、イスラム世界の連帯を唱えていた。
しかし、ブッシュが、「悪の枢軸」として、非難しているそんなイラクを支援してきたのは、アメリカである。
そのことは、Wikipediaのイラン・イラク戦争とアメリカによる支援の中で、書かれているが、以下の重要な記載を見落としてはいけないだろう。
アメリカが、イラクを支援したのは、1979年にイラン・イスラム革命によってイランにシーア派のイスラム共和国体制が成立し、イラン政府は極端な反米活動を展開したことから、中東の反米政権を潰す目論みを立てたアメリカは1984年にイラクと国交を回復し、1988年に至るまでフセイン政権を支援し総額297億ドルにも及ぶ巨額の兵器供給を行った。その後、フセイン政権は1980年から1988年まで国境紛争でイランと戦い(イラン・イラク戦争)、この戦争のさなか1988年3月に、フセイン政権が国内に住むクルド人に対して、毒ガスを使って大量虐殺を行ったが、当時のアメリカのレーガン政権はこれを黙認していたという。
そして、イラン・イラク戦争で、アメリカがイラクを支援した理由には、イランが他の中東諸国にイスラム革命の輸出を行なえば、サウジアラビアやクウェート、アラブ首長国連邦などスンニ派が実権を握る宗教色の薄い親米政権が危うくなり、石油の確保などアメリカの利益も危ぶまれる可能性があったからだとされている。又、国際連合の調査によりイラクが化学兵器を使用していることが判明すると戦争に対する世界的な非難が高まったが、以下はジョージ・ワシントン大学がアメリカの情報公開法に基づき政府に開示させた資料を元に書くとして、以下の記述がある。
「アメリカはラムズフェルド(前国防長官)を特使としてイラクに派遣、全面的な支援を約束した。武器提供・石油パイプラインの建設などでイラン・イラク戦争の開戦を促した。そして、イラクとアメリカの会談の際、話が化学兵器に及ぶとアメリカ側のジョージ・シュルツ国務長官は「我々は特に問題視していない」と答えた。そのため、イランと結びつく危険のある国内の反対勢力である少数民族のクルド人に対して化学兵器が使用されたとされる。また英国メディアによるとこの時期、イラクに向けて化学兵器・生物兵器の原料がアメリカ、イギリスから輸出された。」・・・と言うのである。
これが本当なら、自分に都合よいときは、化学兵器・生物兵器の原料を輸出し、その使用を認めていながら、都合が悪くなると、そのような兵器等を持っている可能性があるからといって、その国を「悪の枢軸」として、一方的に攻撃するというのはどんなものだろう。これは、自国は核を持ちながら他の国には持たせないと言う以上に、余りにも勝手な理屈ではある。イラク攻撃が始まったときから、「アメリカは石油をコントロールするためにイラクを攻撃したいのではないか」と疑われ、非難されてもいた。
アメリカ同時多発テロ以降のアメリカは、テロ組織アルカイダを支援しているとしてフセイン政権のイラクに強硬姿勢を取るようになったが、イラク攻撃自体は同時多発テロ以前から、湾岸戦争時国防長官だったチェイニー副大統領を中心とする政権内部のネオコンで既に議論されていたといわれている。
「9.11テロ事件」の犯行はテロ組織が犯したものであって、イラクではない。イラクの独裁的な行為等の問題については、国連が交渉と対話を通じて解決する道筋を探るべきことであった。反テロを口実に、国内事情はどうあれ、一つの主権国家に対し侵略同然の軍事行動をとるのは民主国家の建設どころか、国際反テロ同盟を乱し、世界中にテロが広がり、収束のつかない事態になろうとさえしている。
ベネズエラのウゴ・チャベス大統領がブッシュの「悪の枢軸」に対して、中南米の左翼政権の連携を、「善の枢軸」ともじったと言うが、日本など、折角、憲法のもと、非核三原則の態度を貫いてきたのだから、この方面での正に、「善の枢軸」の連帯を形成していって欲しいと思うのだが、現実には、憲法改正論議や、本年(平成19)1月9日防衛庁が、防衛省に移行したのを期に、どうも、その反対の方向へ行きそうな空気が、広まってきたことが憂慮される。
(画像は、ジョージ・ブッシュ米国大統領。フリー百科事典Wikipediaより)
参考:
Wikipedia - 悪の枢軸発言
http://ja.wikipedia.org/wiki/悪の枢軸発言
サッダーム・フセイン - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%83%E3%83%80%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%BB%E3%82%A4%E3%83%B3
自衛隊 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E8%A1%9B%E9%9A%8A
憲法改正論議 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%86%B2%E6%B3%95%E6%94%B9%E6%AD%A3%E8%AB%96%E8%AD%B0
田中宇の国際ニュース解説
http://tanakanews.com/
2002年の今日(1月29日)、米国のジョージ・ブッシュ大統領は、一般教書演説の中で反テロ対策の標的として、北朝鮮(民主主義共和国)・イラン・イラクの3ヶ国を名指しして、「悪の枢軸(すうじく) (英語では「axis of evil」)」と総称して批判し、これら3国は大量破壊兵器を保有し、世界に脅威を与えるテロ支援国家であるとした。
この教書での「悪の枢軸」という表現は、ウィンストン・チャーチルが、第二次世界大戦時にアメリカ、イギリスなど連合国と戦った大日本帝国、ドイツ、イタリア王国、ブルガリアなどで構成する諸国を指して使用した「枢軸国」と、冷戦中にロナルド・レーガンによって当時のソ連を指して使われた表現である「悪の帝国」からの引用を組み合わせたものと見られる。
しかし、3国が軍事協定の類いを結んだ様子もない事から(枢軸国と呼ぶのはおかしい。これらの言葉には、「民主主義と平和の敵。危険な国家」を象徴する意味合いで使われているようだ。
しかし、この「悪の枢軸」発言は、世界的に大きな波紋を広げ、NATO(北大西洋条約)を介して同盟関係にあるはずの欧州諸国の外相からも「乱暴な言い方だ」等と苦言を呈された他、中国、韓国やロシアも反発。非難された国々は、大国の「挑発的かつ、侮辱性的な発言」であるとして、反駁(はんばく)、北朝鮮などが態度を硬化させる原因にもなった。
イラクは、その後拒否していた国連の兵器査察も受け入れるが、査察では、大量破壊兵器など発見はされなかった。しかし、2003年3月20日、ブッシュ大統領は、イラクが大量破壊兵器を廃棄せず保有し続けているという大義名分をかかげて、国連安保理決議1441を根拠として一方的にイラク攻撃を開始した。攻撃はアメリカ軍が主力であり、イギリス軍がこれに加わった。そして、4月9日、バグダッドは陥落し、5月2日にはアメリカのブッシュ大統領が大規模戦闘終結宣言(開始から44日目。戦争終結ではない)を出した。
フセインは、逮捕され、2006年11月5日 イラク高等法廷にて人道に対する罪として死刑判決を受け、12月26日 同法廷にて1審死刑判決が控訴審で支持され、死刑確定。 その4日後の12月30日 絞首による死刑が執行され刑死した。しかし、その後も、イラク武装勢力によるアメリカ軍、イラク新政府への抵抗が続いており、未だに、戦闘状態は終了せず、多くのイラク市民、米兵に死者を出しており、「ベトナムの悪夢の再現」が心配されだしている。日本も戦闘終結宣言後、イラクの復興援助を理由に派遣していた自衛隊は、空軍以外は、引き上げてきたが、何時、全面撤去ができるかは、不透明である。
元来アラブ民族主義の申し子であったサダム・フセインは、大統領に就任した後、イスラム教を掲げて政治に乗り出そうとする勢力を政権の脅威と見なして弾圧し、南部のシーア派地域を中心に高まりを見せていたイスラム主義(イスラム原理主義)の動きを弾圧、多くのシーア派法学者(イスラム聖職者)が逮捕、殺害、国外追放の処分を受けた。クルド人の自治運動にも敵対的な姿勢で臨み、その活動を妨害した。反対派への粛清、それによる恐怖政治、クルド人に対する弾圧から国外的にはアドルフ・ヒトラーなど同様の独裁者として恐れられた。しかし、国内的には政治・経済が安定し、その統治に国民はやがて慣れ安住していった。
ただし、その後、アメリカとの対立姿勢を明確にした後は、キリスト教社会との対決を訴え、イスラム世界の連帯を唱えていた。
しかし、ブッシュが、「悪の枢軸」として、非難しているそんなイラクを支援してきたのは、アメリカである。
そのことは、Wikipediaのイラン・イラク戦争とアメリカによる支援の中で、書かれているが、以下の重要な記載を見落としてはいけないだろう。
アメリカが、イラクを支援したのは、1979年にイラン・イスラム革命によってイランにシーア派のイスラム共和国体制が成立し、イラン政府は極端な反米活動を展開したことから、中東の反米政権を潰す目論みを立てたアメリカは1984年にイラクと国交を回復し、1988年に至るまでフセイン政権を支援し総額297億ドルにも及ぶ巨額の兵器供給を行った。その後、フセイン政権は1980年から1988年まで国境紛争でイランと戦い(イラン・イラク戦争)、この戦争のさなか1988年3月に、フセイン政権が国内に住むクルド人に対して、毒ガスを使って大量虐殺を行ったが、当時のアメリカのレーガン政権はこれを黙認していたという。
そして、イラン・イラク戦争で、アメリカがイラクを支援した理由には、イランが他の中東諸国にイスラム革命の輸出を行なえば、サウジアラビアやクウェート、アラブ首長国連邦などスンニ派が実権を握る宗教色の薄い親米政権が危うくなり、石油の確保などアメリカの利益も危ぶまれる可能性があったからだとされている。又、国際連合の調査によりイラクが化学兵器を使用していることが判明すると戦争に対する世界的な非難が高まったが、以下はジョージ・ワシントン大学がアメリカの情報公開法に基づき政府に開示させた資料を元に書くとして、以下の記述がある。
「アメリカはラムズフェルド(前国防長官)を特使としてイラクに派遣、全面的な支援を約束した。武器提供・石油パイプラインの建設などでイラン・イラク戦争の開戦を促した。そして、イラクとアメリカの会談の際、話が化学兵器に及ぶとアメリカ側のジョージ・シュルツ国務長官は「我々は特に問題視していない」と答えた。そのため、イランと結びつく危険のある国内の反対勢力である少数民族のクルド人に対して化学兵器が使用されたとされる。また英国メディアによるとこの時期、イラクに向けて化学兵器・生物兵器の原料がアメリカ、イギリスから輸出された。」・・・と言うのである。
これが本当なら、自分に都合よいときは、化学兵器・生物兵器の原料を輸出し、その使用を認めていながら、都合が悪くなると、そのような兵器等を持っている可能性があるからといって、その国を「悪の枢軸」として、一方的に攻撃するというのはどんなものだろう。これは、自国は核を持ちながら他の国には持たせないと言う以上に、余りにも勝手な理屈ではある。イラク攻撃が始まったときから、「アメリカは石油をコントロールするためにイラクを攻撃したいのではないか」と疑われ、非難されてもいた。
アメリカ同時多発テロ以降のアメリカは、テロ組織アルカイダを支援しているとしてフセイン政権のイラクに強硬姿勢を取るようになったが、イラク攻撃自体は同時多発テロ以前から、湾岸戦争時国防長官だったチェイニー副大統領を中心とする政権内部のネオコンで既に議論されていたといわれている。
「9.11テロ事件」の犯行はテロ組織が犯したものであって、イラクではない。イラクの独裁的な行為等の問題については、国連が交渉と対話を通じて解決する道筋を探るべきことであった。反テロを口実に、国内事情はどうあれ、一つの主権国家に対し侵略同然の軍事行動をとるのは民主国家の建設どころか、国際反テロ同盟を乱し、世界中にテロが広がり、収束のつかない事態になろうとさえしている。
ベネズエラのウゴ・チャベス大統領がブッシュの「悪の枢軸」に対して、中南米の左翼政権の連携を、「善の枢軸」ともじったと言うが、日本など、折角、憲法のもと、非核三原則の態度を貫いてきたのだから、この方面での正に、「善の枢軸」の連帯を形成していって欲しいと思うのだが、現実には、憲法改正論議や、本年(平成19)1月9日防衛庁が、防衛省に移行したのを期に、どうも、その反対の方向へ行きそうな空気が、広まってきたことが憂慮される。
(画像は、ジョージ・ブッシュ米国大統領。フリー百科事典Wikipediaより)
参考:
Wikipedia - 悪の枢軸発言
http://ja.wikipedia.org/wiki/悪の枢軸発言
サッダーム・フセイン - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%83%E3%83%80%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%BB%E3%82%A4%E3%83%B3
自衛隊 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E8%A1%9B%E9%9A%8A
憲法改正論議 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%86%B2%E6%B3%95%E6%94%B9%E6%AD%A3%E8%AB%96%E8%AD%B0
田中宇の国際ニュース解説
http://tanakanews.com/