今日のことあれこれと・・・

記念日や行事・歴史・人物など気の向くままに書いているだけですので、内容についての批難、中傷だけはご容赦ください。

不器男忌(俳人・芝不器男の忌日)

2010-02-24 | 人物
今日・2月24日は、27歳で夭逝した俳人・芝不器男(しば ふきお)の1930(昭和5)年の忌日である。
「あなたなる夜雨(よさめ)の葛(くず)のあなたかな」(芝不器男)
朝日クロニクル「週間20世紀」(ふるさとの100年)の「ふるさとを詠みふるさとを歌う」と題して、短歌100年の歴史の中から忘れがたい名句、名歌、和歌を選んだというものの中に、室生犀星の「ふるさとに身もと洗はる寒さかな」の句に続いて、芝不器男の上掲の句が掲載されていた。
芝 不器男は、1903(明治36)年4月18日愛媛県北宇和郡明治村(現・松野町)にて芝家の四男として生まれ、鬼北盆地の豊かな自然の中に育った。不器男は本名。彼は、故郷の自然や家族を多く俳句に詠み望郷の俳人と呼ばれている。上掲の句同様に永遠なるものへの郷愁がこもる「永き日のにはとり柵を越えにけり」の句や、「ふるさとの幾山垣やけさの秋」といった透明感のある素晴らしい句がある。
不器男は、旧制松山高校を経て、1923(大正12)年、東京帝国大学農学部林学科に入学するが、同年、夏期休暇で愛媛に帰省中に関東大震災が起こり、以後、東京へは行かず、姉の誘いで長谷川零余子(はせがわ れいよし)が主宰する「枯野」句会に出席し句作を始める。この当時、号は、芙樹雄または不狂としていたそうだ。1925(大正14)年、22歳のとき、東京帝大を中退し、東北帝国大学(現:東北大学)工学部機械工学科に入学。兄の勧めで吉岡禅寺洞(よしおか ぜんじどう。 以下参考の※:「福岡文学散歩(8) 吉岡禅寺洞【福岡市総合図書館】」参照)主宰の俳句雑誌『天の川』へ投句を開始。このとき、禅寺洞に勧められ、号を本名の不器男に改号。翌・1926(大正15)年には、「天の川」で頭角を現し、俳誌の巻頭を占めるようになったという。同時に、高濱虚子の主宰する俳句雑誌『ホトトギス』への投句を始め、1927(昭和2)年、同誌で、虚子より、最初に叙情味豊かな万葉調(『万葉集』にみられる特徴的な歌調)の句により激賞され、注目を浴びたのが、上掲の『ホトトギス』1月号の入選作「あなたなる夜雨の葛のあなたかな」である。
不器男は東北帝大時代、仙台に下宿していたが、この句は夏休みに故郷へ帰省後、再び仙台に戻る途中夜汽車の窓から雨に濡れた葛を見て物寂しさをおぼえ、詠んだ句だそうで、「あなたなる」とまずそのはるか かなたにある故郷に思いを馳せ、そこに夜雨の降っている葛を描きだし、さらに、そこに住む母をはじめとする家族にも思いを馳せ、故郷と自分との距離を改めて認識したのだろうという。「あなた」の繰り返しが、そのような効果をもたらしている。虚子は『薄明るく浮かんだ夜雨の葛の前後の非常に長い部分は唯真暗で、一面に黒く塗ってあるばかりといったようなものでその黒い部分は故郷を思いやった情緒である』とこの句を絵巻物に例え賞賛したという(以下参考の※:「四国いしぶみ物語」のここ参照)。
この後、冬季休暇で仙台から故郷に帰省したのち、二度と仙台には帰らなかったため、同年授業料の滞納で東北大学を除籍されたという。
1928(昭和3)年、伊予鉄道電気副社長・太宰孫九の長女文江と結婚し、太宰家のの婿養子となり順風満帆かと思われたが、翌・1929年(昭和4)年睾丸炎を発病し、入院治療を受け12月に退院するも、1930(昭和5)年1月病状が悪化し、2月24日福岡市薬院庄の仮住まいで26歳10ヶ月の短い生涯をとじたという。
没後『不器男句集』(1934)が刊行されている(以下参考のここ参照)。
1988(昭和63)年松野町が生家を改装し、「芝不器男記念館」を開館。不器男の句碑17を巡る散策路「俳句の小径」も設けられているようだ(松野町公式ホームページ参照)。
「天才は、天性の才能。生まれつき備わった優れた才能。又、そのような才能を持っている人(『広辞苑』)をいうのだろうが、そのような「天才は夭折(年若くて死ぬ。若死に)する」などとよく言われるが、虚子に叙情味豊かな万葉調の句によりその早熟の才能を認められ、「ホトトギス」などに優れた作品を発表して、全国的に新進作家として注目されたにもかかわらず、病のためわずか27歳にもいたらぬ年令で夭折した不器男もやはり、天才的な文人と言うべきか?・・・他にも、30歳以下で死去した日本の文人として、石川啄木 (結核により死去。26歳。)や、 金子みすゞ (1930年に服毒自殺。26歳。) また、新美南吉 (喉頭結核によって病死。29歳。)などの名が思い出されるが、どうして、そのような天才的と言われる人達が若くして死んでしまうケースが多いのだろうか・・・?
今日、私が、27歳で夭逝した俳人・不器男のことを書いたのは、彼自身のことやその詩のことよりも、彼の本名である「不器男」という名前に興味があったからだ。彼の本名「不器男」と言う名は、『論語』の「子曰、君子不器」(君子は器ならず)から命名されたものだそうだ。この言葉は、『論語』為政(いせい)篇第二-12に、出てくるが、ここで、孔子は、「不器」について『君子(できた人物)というものは、用途の限られた器物のようなものではない」といっている。ようするに、何か特別なことが出来るとか、色々のことが出来る人をさしているのではない。
西欧のルネッサンス時代のミケランジェロのような巨匠は、絵画や彫刻といった1つの作品の枠を超越した広く深い知識を持っていた。バチカンシスティナ礼拝堂の壁画などを描いたミケランジェロは、『サン・ピエトロ大聖堂』の設計者でもある。又、ルネサンス期を代表する芸術家・レオナルド・ダ・ヴィンチは、絵画、彫刻、建築、土木、人体、その他の科学技術に通じ、極めて広い分野に足跡を残しており、彼の残した遺稿の中には飛行機についてのアイデア、までも含まれており、正に、万能の天才という異名で知られている通りである。ただ、これらの天才的巨匠にしても、1つの技能を修得するには、その基本原理を学習し、それをたゆまず応用し続けることでなすべきことが可能になった。トーマス・エジソンの名言に「天才は1%のひらめきと99%の努力のたまものである」というのがあるようだが、もって生まれた才能も努力がなければ光らないのだ。
芝不器男や石川啄木達の素晴らしい詩や句を書く特殊な能力、それに、ルネッサンス時代の巨匠のように、多方面に、しかも、超人的な仕事をする能力であっても、それが、君子の条件ではない。孔子は、君子としての本質は、そのような能力以上に人を愛し、人の上に立つにふさわしい性(道徳をわきまえた正しい品性。道徳心。道義心。)を備えた人格者だといいたいのだろう。因みには、具体的には仁・義・礼・智・信の五徳をいう。
「君子不器」の次、『為政篇第二-13では、弟子の中で最も議論に強かったと言われる子貢(しこう)の君子についての質問に対して「先行其言、而後従之」(先ずその言を行う、而【しこう】して後これに従う)。つまり、「まず言いたい事柄を実行し、その後で、自分の主張を述べる人こそ君子である」・・と指摘し、言葉だけで有能さを示す「弁舌の徒」では社会からの信用や支持が得られ難いので、自分自身が民衆に期待することを率先垂範して行い「有言実行」をすることが必要だと諭している。
この『論語』為政篇の最初・・第一-1では、「子曰、為政以徳、譬如北辰居其所、而衆星共之。」つまり、『政治を行うのに道徳(人徳)をもってすれば、まるで北極星が天の頂点にあって、周囲の星々が北極星の周りをめぐるように上手く民衆を治められるだろう。』・・・と言っている。
今の日本の政治家などには、御願いだから、少し「論語の勉強とその実践をしてくださいよ」・・・言ってやりたいものだね~。それにしても、俳人・不器男の親は、不器男に何を託して、論語から、このような名前を付けたのだろう・・・?夭逝した不器男は天才的俳人として評価されているが、本当は、このような一俳人に留まらず「君子」として、日本のためにもっともっと、大きなことをしてもらいたいと考えていたのではないのかな?・・・と、私は思っているのだが・・・。
『論語』については、以下の解説を参考にさせてもらった。非常に分りやすく、詳しく書かれているので、興味のある人は、一読されると良い。
「論語学朋塾・みちしるべの会」 ⇒  http://www.powbig.com/index.html
(画像は、芝不器男。愛媛県松野町公式ホームページ掲載分より借用)
参考:
※:福岡文学散歩(8) 吉岡禅寺洞 【福岡市総合図書館】
http://toshokan.city.fukuoka.lg.jp/docs/bungakukan/html/arekore.html
※:四国いしぶみ物語
http://www7a.biglobe.ne.jp/~gucci24/
愛媛県松野町公式ホームページ
http://www.town.matsuno.ehime.jp/
芝不器男
http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/fukio.htm
※:「論語学朋塾・みちしるべの会」
http://www.powbig.com/index.html
※:Web漢文大系
http://kanbun.info/index.html
ルネサンス - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%87%E8%8A%B8%E5%BE%A9%E8%88%88
芝不器男 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8A%9D%E4%B8%8D%E5%99%A8%E7%94%B7
万葉集 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%87%E8%91%89
天才 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A9%E6%89%8D
室生犀星 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%A4%E7%94%9F%E7%8A%80%E6%98%9F
トーマス・エジソン - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%82%B8%E3%82%BD%E3%83%B3