如空中雲須臾散滅
風に散るありなし雲の大空にただよふほどやこの世なるらん
半紙
【題出典】『往生要集』大文一
【題意】 空中の雲の須臾(しゅゆ)にして散滅するが如し。
空中の雲が一瞬にして消えるようなものだ。
【歌の通釈】
風に散るあるかないかの分からないような雲が大空に漂う一瞬が、この世のありさまなのだろうか。
【考】
題は、世のはかなさを、一瞬にして消える雲で比喩したもの。その雲を「ありなし雲」という歌ことばを用いて表現し、さらにそれが風に散ると詠み、はかなさを強調している。左注では、無常の雲という題と歌の主旨から離れて、澄んだ心を覆う煩悩の雲の厭わしさを述べ、来迎の紫雲のみを心にかけるよう説く。
(以上、『寂然法門百首全釈』山本章博著 による。)