芭蕉「野ざらし紀行」より
半紙
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本文は、以下の通り。
二十日(はつか)余(あまり)の月、かすかに見えて、
山の根際(ねぎは)いとくらきに、
馬上に鞭をたれて、数里いまだ鶏鳴(けいめい)ならず。
杜牧(とぼく)が早行(さうかう)の残夢、
小夜の中山に至りて忽(たちまち)驚く。
馬に寐て残夢月遠し茶のけぶり
【口語訳】(小学館版・「日本古典文学全集」による)
二十日過ぎの月が、未明の空にかすかに見えるが、
山の麓のあたりは大層暗い中を、
馬上に鞭を垂れたまま、馬の歩むにまかせて山路を数里たどったが、いまだ暁を告げる鶏の声も聞えない。
かの杜牧の「早行」の詩にいう名残の夢心地で行くうちに、
小夜の中山まで来て、はっと目がさめた。
馬上にうとうとと名残の夢を見続けてゆくうち、ふと気づくと、
月は遠い山際にかかり、麓の里の家々からは、茶を煮る煙が立ちのぼっている。
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「残夢」というのは、夢からさめてもまだ夢を見ているような気持ちのこと。
いい言葉ですね。