真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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原発事故 許容被曝線量 晩発性放射線障害

2013年05月30日 | 国際・政治
 2013年5月25日の朝日新聞は、「福島第1原発事故で避難した住民が自宅に戻ることのできる『年20ミリシーベルト以下』の帰還基準は、避難者を増やさないことにも配慮して作られていた」と報じた。住民の被曝を減らすために、帰還基準を5ミリシーベルトにするべきだという意見もあったようであるが、そうすると、福島県の13%が原発避難区域に入り、人口流出や風評被害が広がること、また避難者が増えて、賠償額が膨らむことが懸念されたためであるという。そして、2011年11月の放射線量に基づき、(1)5年以上帰れない帰還困難区域(年50ミリシーベルト超)、(2)数年で帰還を目指す、居住制限区域(年20ミリ超~50ミリシ-ベルト)、(3)早期帰還を目指す、避難指示解除準備区域(年20ミリシーベルト以下)に再編、と伝えている。
 しかしながら、チェルノブイリ原発事故後のソ連での議論や、晩発放射線性障害の発生状況を考えると、その放射線量はあまりに高く、日本政府や関係者は被曝による晩発性放射線障害の問題をどのように考えているのかと疑問に思う。
 チェルノブイリ事故後のソ連邦の対応は70年35レム説(生涯350ミリシーベルト概念)に基づいて進められたようであるが、それは、それまでの年間5ミリシーベルトの許容被曝線量を、事実上つり上げるための考え方であり、住民の命や健康を無視するものだ、と激しい反発の声が、下記のようにあちこちから上がったのである。そして、被曝による様々な晩発性放射線障害が、現在も問題となっている。 下記は、「チェルノブイリ極秘」アラ・ヤロシンスカヤ著・和田あき子訳(平凡社)からの抜粋である。
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            第1部 わが内なるチェルノブイリ

「子ども達の健康は心配ない」

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 そのあとでもう一つ、世論に影響を与えようとする試みがあった。雑誌『放射線医学』と新聞『科学技術革命の論壇』に、事故後の状況と関連して放射能の安全性の分野や放射線医学機関で活動してきた学者グループの声明が発表されたのである。その趣旨はまたもやこうである。35レムの限度内なら、被爆しても安全だ。この被爆線量まで達しないうちは、何も心配はないというのだ。子どもたちの健康には何の心配もない、と。

 彼らは誰一人として、一度くらいは次のような単純な事例を考えつかなかったのだろうか。大人の私が20年間かかって、35レムの被爆を受けたとしよう。徐々に。これは一つの事例だ。ところがここに1歳の赤ちゃん、あるいは2歳の赤ちゃんがいたとする。この子が同じ線量を、例えば10年ではなく、1-2年で受けたとする。はたしてこの2つが比較可能だろうか。はたしてこれが安全性という観点から許容されるだろうか。私の肉体とその赤ん坊の肉体の反応は、同一だという観点に立つのか。こんな単純な、小さな事柄を理解するのに、アカデミー会員である必要も、放射線生物学者である必要も、医学者である必要もない。それは私の判断でもなんでもなく、私たちが自分の州で出会う生活の現実である。私たちのところには村があり、それらの村にはたった2年間のうちに20レムの被爆をした子どもたちがいる。この子たちにこの先、何が起こるのだろうか。弱い子どもの肉体にとってそれは、彼らの体調から判断しても、打撃である。すべてが秘密にされていたので、それを知らなかったことも加えれば、それが彼らの両親にとっていかに言語道断な打撃であったかは想像にかたくない。イリインの言い方を借りれば、「ただの人」にとっては


 とくにアカデミー会員イリインと彼の同調者たちのために、私は、チェルノブイリ原発の職員たちでない、子どもも含めた住民たちが黒い沈黙の最初の2年間に10レムから20レム、15レムまで被爆したナロヂチ地区の12の村の名を列挙しておきたい。
 それは、ルードゥニャ=オソシニャ村(権力に隠れて私が潜入した最初の村)ズヴェズダリ村
、…(以下村名は略)

 これらの村の住民の即時避難に関する政府決定が採択されたのは、ソ連邦第1回人民代議員大会の前夜のことであった。それからほぼ2年がたった。そしてどうなったか。今日にいたるも、まだすべてが避難していない。理由は、国家、地方行政機関に支払い能力がないからである。人々を移住させるところがない。住宅がない。資材がない。建てる者がいない。労働力がない。ない、ないづくしである。

 そしてまさにここに、連邦政府の側が、「支持グループ」に積極的に加担する中で、学者グループが「70年35レム」というテーゼに固執していることの本質と理由がある。彼らが念頭においているのは被爆した何百万の人々を守ることではなく、そのテーゼのモデルを借りて、わが政府に万事うまくいっている、人々の健康にはまったく心配はないという幻想をつくり出すことだったのである。どうやら、ただ単に物──つまり住宅や長椅子やガス設備のみならず、「学問的」予測もまた便利で快適なものであることが多いらしい。

 自分の政府の居心地よさのために国民は高い代価を払わされているのである。
 では、ソ連邦最高会議委員会の公聴会ではイリイン説に一体どんな評価が与えられているのか。
 生物学博士のA・G・ナザーロフは言った。
「ここでいつも言われている原則的な命題が一つ、それはいわゆる35レム説である。われわれはこの問題を多角的に、ただ医学的観点からだけでなく、社会心理学的からも、社会学や経済学の観点からも、また地形生態学の観点からさえ研究した。これらの観点からすると、つまり総合的アプローチからすれば、いわゆる35レム説は、概念の体をなしていない。なぜなら、もとより35レム説にせよ。40レム説にせよ30レム説にせよ、基準自体が数字的に厳密な根拠を欠いているので、われわれは、医学アカデミーや保健省が提出したすべての科学的資料を検討して、いまそれが出されているような形では、35レム説は、決定を下すための指導的コンセプトとはなりえないという結論に達したのである」


 ソ連邦最高会議エコロジー委員会専門家E・M・ボロヴェツカヤは言った。
「生涯に35レムという数値は、『b』の範疇のひと、つまり核施設で働いていない、普通の住民にとっての被曝線量限度として、現在一般的に受け入れられている、1年0.5レムという線量を寿命を70年として単純に70倍して得られたものです。何のためにこれが必要であったかという問題が起こってきます。その目的はただ一つです。科学的アプローチと見せかけて、1年に0.5レムから35レムまで被曝しても、人間には害はないかのように線量限度値を恣意的につり上げたことを覆い隠すことです。実際に、曖昧な形での生涯許容線量というコンセプトは、数時間に取り込もうと、数ヶ月に取り込もうと、数十年に取り込もうと、それには関係なく、同じように害はないと思わせます。ですから事実上これは、1年0.5レムという現在一般に受け入れられている線量限度を70倍も高いものにすり替えることを意味します。それだけ被曝するまで、ゾーンから外へ人びとを出すことはないかのように。しかし、そのような線量限度値のすり替えは、絶対に許されません……。生涯35レム説は、線量の時間的割り振りを無視しており、そのことによって35レムの急性被曝と、70年間にわたる同量の被曝を等価に置いています。ところが、それは学問的データの総体と矛盾しているのです。実際に被曝が時間的に集中しているときには、その有害な作用は急激に増大します。生涯35レム説は、いろいろな年齢の人の放射線感受性の差を完全に無視しています……。子どもは成人、ましてや老年期の人よりはるかに被曝に感じやすいものですし、同一年齢の人でも放射線感受性は人によって数倍も違います。生涯35レム説は、急性あるいは慢性放射線障害のような作用しか考慮に入れておらず、ガンの誘発を含めたいろいろな病気の罹病率の上昇やいろいろな有害な作用に対する感受性の上昇といった、専門家にはよく知られているものの、まだ十分に研究されていない段階にある、免疫系の破壊に関連した影響を無視しています。35レムという線量は、人間にいろいろな遺伝子の異常の頻発を強める被曝線量に近い。それは、もし生殖期の終わりまでにそのような被曝を人間が受ければ、その人の子どもは先天的疾患を持って生まれてくる確率が高くなることを意味します」 
 E・M・ボロヴェツカヤが読み上げたテキストには400人の学者が署名していた。これは、雑誌『放射線医学』と新聞『科学技術革命の論壇』に発表された35レム論を信奉する学者グループの手紙に対する「チェルノブイリ原発事故による住民と生態系に対する放射線の影響の遺伝的価値」会議の参加者の名による集団的反論であった。


 ウクライナ共和国人民代議員、ナロヂチ地区執行委員会議長V・S・ブヂコは言った。
「この説は医学的なものというより経済的なものだ、とわれわれは理解している。これはその地域に住んでいる人びとへの背信行為である。なぜ私がそう言うのかといえば、それは1986年4-5月に現地で起こったことが何も考慮されていないからだ」


 ソ連邦最高会議エコロジー・資源有効利用委員会のメンバー、E・P・チホネンコは言った。
「チェルノブイリ大惨事の当初から中央省庁によって実施されたこれらの政策の基礎には、1987年末からは『生涯線量35レム』説が置かれていたが、この説の使命は、次のような課題を解決することだった。つまり一般世論を落ち着かせること、事故処理の責任を党と国家の機関や具体的個人から解除すること、多くの損害を被った被災者と汚染地区の住民への補償をできるだけ少なく済ますこと、それに人びとの生命と健康に対する危惧が根拠のないものであると思わせることである。
 その本質においてこの説は、反人道的なものである。そのことはこの説がいたるところで、決定的に拒否されていることを証明している。……それは破廉恥なものでさえある」


 医学博士のソ連邦人民代議員Y・N・シチェルバークは言った。
「われわれの学問と社会におおきな弊害をもたらしてきたのは、一般的に言って独占主義である。チェルノブイリの歴史にもまさしく同じものがあると私は考える。特にアカデミー会員イリインを先頭にした医学者グループの独占主義、これは私の深い確信であるが、この独占主義は最も深刻な弊害である。もし、ことが人の健康に関わるものでなければ、このような告発をしようとは思わない。心理的状態のことならば、このことはすでに明々白々だ。独占主義は35レム説の押しつけに表れている……。この説は、押しつけられ、さまざまな口実をつけてあらゆる公式文書に取り入れられている。5日前に私は、スイスから戻ってきたところだが、そこでは放射線防護の分野の大家たちに会ってきた。彼らはこの説に不審を抱いていた」

  
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