真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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陸軍登戸研究所 南京出張 人体実験

2008年11月09日 | 国際・政治
 元陸軍登戸研究所所員 伴繁雄氏は、その著「陸軍登戸研究所の真実」伴繁雄(芙蓉書房出版)の中で、人体事件のために南京に出張したことを、下記の通り報告している。しかし、田母神論文の中には「我が国は蒋介石により日中戦争に引きずり込まれた被害者なのである」とある。日中戦争で日本軍が何をしたのか、真摯に問い直すことなく、平和な国際関係をつくることは不可能だと思う。現在の日本は、戦争の大失敗を日本国憲法の中に明記し、180度方向転換をしてスタートしたのである。
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飲んでも疑われない毒物の開発に成功

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 登戸研究所の毒物研究は、終戦まで毎年研究者が増員され、瀧塚旬郎薬剤大尉(千葉医大付属薬専卒。後に薬剤少佐)、杉山圭一技大尉、小堀文雄技少尉(後に大尉)、そのほか技手、雇員多数が研究に携わった。
 二科三班の研究目標としていた新規の独創的毒物は、無色、無味、無臭の水溶性毒物の合成だった。飲食物に混入しても疑いを持たれない
謀略用毒物が求められたのである。
 滝脇技手は、土方班長の技術指導のもと、それまで犯罪に使用されていた青酸カリ、青酸ソーダおよび両者の混在品を研究し、謀略毒物としての欠点を調べながら、新しい青酸化合物の開発に成功した。
 青酸カリ(シアン化カリウム=KCN)は無色の粉末で、水に溶けるがアルコールには溶けにくい。致死量は約 0.15グラム。飲むと胃酸と反応して致死量約0.06グラムという猛毒の青酸(シアン化水素)を発生させ、呼吸作用を止める働きをする。青酸ソーダ(シアン化ナトリウム=NaCN)も、酸、二酸化炭素と化合して青酸を発生させる無色の結晶である。しかし、青酸は苦扁桃臭という独特の臭いがする。水に溶かして飲ませようとしても、独特の舌を刺すような刺激的な味で相手に気づかれることがあり、これをうまく隠す巧妙な手際の良さが要求される。
 新製品は、青酸の溶剤のアセトンを主原料とし炭酸カリを加えたもので、この青酸化合物を登戸研究所では、アセトン・シアン・ヒドリン(青酸ニトリール)と呼んでいた。
 アセトン・シアン・ヒドリンの化学式と分子構造は次の通りである。(略)

 アセトン・シアン・ヒドリンは無色、無味、無臭といってよく、青酸カリに比べ安定している特長があった。青酸カリが固体なのに対し、水にもアルコールにもよく溶けて飲食物に混合しやすい液体である。そのままでは青酸が揮発するため氷で冷却する必要があるが、注射用のアンプルに封入すれば保存と運搬が容易、という謀略毒物として優れた性質を備えるものだった。胃液の中で、青酸が遊離して青酸ガスを発生させ、中枢神経を刺激してマヒが起こる青酸中毒死であるのは青酸カリと同様である。青酸カリ、青酸ソーダの分子中のCN が等しく、症状は全く同一「だが、もし、原液を注射液として使用すれば、数倍の効果があるであろうことも予想された。



 人体実験のため南京に出張
 
 昭和16年5月上旬、二代目の二科長畑尾正央中佐(後に大佐)を長として、一班長で当時技師の私、三班長土方技師と三班の研究者、技術者の計7名は、篠田所長から南京出張を命ぜられた。参謀本部の命によるものだった。
 
出張の目的は、試作に成功し動物実験にも成功を収めた新毒物の性能(毒力)決定、すなわち人体での実験を行うことであった。
 この実験にあたって篠田所長は、関東軍防疫給水部(昭和16年8月から秘匿名・満州731部隊に改称)の石井四郎部隊長(当時軍医少将)と参謀本部で接触し、実験への協力に快諾を得ていた。関東軍防疫給水部は日本軍の極秘細菌戦部隊として設けられたが、薬理部門では青酸化合物などの研究も行われていたからである。
 そこでの取り決めは、実験場所を南京の国民政府首都守備軍(指令長官・康生智将軍)が遺棄した病院とし、実験期日は南京の中支那防疫給水部が指定する。実験期間は約1週間を見込み、実験者は同給水部の軍医で、実験には登戸研究所からの出張員が立ち会うというものだった
実験対象者は中国軍捕虜または、一般死刑囚15、6名、とされた。
 6月17日、登戸研究所員らは、長崎港を出発、海路上海を経由して南京に到着すると、支那派遣軍総司令部参謀部に出頭し、出張申告を行った。
 実験のねらいは、青酸ニトリールを中心に、致死量の決定、症状の観察、青酸カリとの比較などだった。経口(嚥下)と注射の2方法で行われた実験の結果は、予想していた通りで、青酸ニトリールと青酸カリは、服用後死亡まで大体同様の経過と解剖所見が得られた。また、注射が最もよく効果を現し、これは皮下注射でよかったことも分かった。
 青酸ニトリールの致死量は大体1CC(1グラム)で、2,3分微効が現れ、30分で完全に死に至った。しかし、体質、性別、年齢などによって、死亡までに2,3時間から十数時間を要した例もあり、正確に特定はできなかった。しかし、青酸カリに比べわずか効果が現れる時間が長いが、青酸カリと同じく超即効性であることには変わりがなかった。
 捕虜・死刑囚に対して行われたとはいえ、非人道的な悲惨な人体実験が行われたのである。戦争の暗黒面としてこれまで闇の中に葬り去られてきたが、いまこのいまわしい事実を明らかにしたいと書き綴った。歴史の空白を埋め、実験対象となった人びとの冥福を祈り、平和を心から願う気持ちである。



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