真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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日韓の「関係改善」と歴史の修正

2024年12月09日 | 国際・政治

 韓国で、突然「非常戒厳」を宣言し、国際世論を驚かせた尹錫悦大統領に対する弾劾決議案は、与党議員の退席で、成立せず廃案になったということですが、韓国の憲法には、第77条第1項に戒厳の要件として、「戦時・事変またはこれに準ずる国家非常事態」とあり、韓国の状況がこれに当たると考えていた人はいなかったと言われていることは重大だと思います。

 また、非常戒厳が宣言された後、戒厳軍は国会だけでなく、中央選挙管理委員会内部にも入り、当直者ら5人の携帯電話を押収した上、約3時間20分にわたって占拠したと報じられています。

 その理由について、金竜顕前国防相は、5日、メディアに送った声明で、戒厳軍を中央選挙管理委員会に送ったのは、「多くの国民が不正選挙疑惑を提起していることに伴い、今後捜査するかどうかを判断するため、システムと施設の確保が必要だと判断した」と説明したということです。

 でも、国家の命運を左右する重要な問題に関し、軍が決定権を持つことは、あってはならないことだと思います。日本の歴史が示していることです。

 また、「非常戒厳」の宣言に関わる情報の中に、楊正哲氏が進歩(革新)系最大野党「共に民主党」の民主研究院長を務めていたころ、同院が中国共産党中央党校と交流協約を締結したとして、選挙に対する「中国介入説」を主張する人たちも存在するといいます。気になる指摘だと思います。

 だから現在、メディアが報じているような尹錫悦大統領金竜顕前国防相などの単なる暴走ではなく、緻密に計算された戦略が背景にあるのではないかと心配です。

 

 ハンギョレ新聞は、この件に関するアメリカ政府高官の主張を、下記のように伝えていますが、私は民主主義を装うための主張ではないかと疑っています。

米国務省のカート・キャンベル副長官は4日(現地時間)、「アスペン安全保障フォーラム」(ASF)の行事で受けた韓国の状況に関する質問に、「私は尹大統領が非常に誤った判断を下したと考えており、韓国では戒厳に対する過去の経験が深く否定的な反響を持っていると思う」と述べた。さらに、韓国政治は分裂が激しいが、投票に参加した議員たちが全会一致で戒厳撤廃を決議したとし、「両党がこのような措置(非常戒厳)は深刻な問題があると同意したことは、多くの面で韓国民主主義の力に対する安心感をもたらす」と述べた。

 キャンベル副長官はまた、「韓国人たちは立ち上がる準備ができており、これ(非常戒厳)は非常に不法な手続きだという点を明確にした」と述べた。さらに「外交部長官、企画財政部長官、大統領室で私たちと協力する多くの主要人物など、私たちの対話相手のほとんどが今回のことに非常に驚いていた」と語った。”

 

ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)はこの日、シンクタンク「戦略国際問題研究所」(CSIS)の行事で演説した後、韓国の状況に関する質問に「韓国民主主義は堅固で回復力がある」としたうえで、「私たちは引き続き公開的に発言し、韓国のカウンターパートと個人的にも関与するつもりだ」と答えた。サリバン補佐官は「戒厳宣布は私たちに深い懸念を呼び起こした」、「ドラマチックな発表はワシントンをはじめとするあらゆる所で警鐘を鳴らした」としてこのように語った。

 サリバン補佐官はまた「私たちは韓国の民主的制度が適切に作動するのを見たい」として、国会が戒厳解除を議決した後、尹大統領がこれに従う手続きが進められたと語った。彼は「世界の他のすべての所と同じように私たちも戒厳宣言をテレビ発表で知った」という米国政府の立場も再び明らかにした。

 

 でも、尹大統領が、緊急談話で、「共に民主党の立法独裁は、大韓民国の憲政秩序を踏みにじり内乱をたくらむ自明な反国家行為」だとした上で、「破廉恥な従北反国家勢力を一挙に清算し、自由憲政秩序を守るため、非常戒厳を宣言する」と主張した内容も批判すべきだと思いますが、は、アメリカの関係者はその発言には、目をつぶっています。

 だから、アメリカが民主主義を装いつつ、いろいろな国で、こうした反共の指導者と手を結んできたことを忘れてはまならないと思います。

 それを踏まえると、今回の”「非常戒厳」宣言の騒動が、尹大統領や金龍顕国防相を切り捨てて終わることはないような気がするのです。与党が不正選挙や中国・北朝鮮の介入などを主張して、騒ぎを続けるのではないかと心配です。

 中・ロを敵視しつつ、日米韓の関係を強化しているときに、アメリカが韓国の野党「共に民主党」に政権が移ることを静観していることはないのではないかと思います。「共に民主党」の文在演前大統領は、北朝鮮の金正恩総書記と握手をし、南北朝鮮の統一を目指す姿勢を見せたと思います。もしこのあと、政権が「共に民主党」に移り、南北朝鮮の統一の方向に向かえば、アメリカの世界戦略は頓挫するのではないかと思うのです。

 

 ふり返れば、第二次世界大戦後、朝鮮ではすぐに「建国準備委員会」が設立されています。そして、アメリカ軍先遣隊が上陸する以前に、全国の南北各界各層を網羅した代表一千数百名の中心的人物をソウルに召集して、全国人民代表者会を開催し、「朝鮮人民共和国」を国号とする国家の創建と、新朝鮮国民政府の樹立を決議しているのです。そして、914日には、共和国政府の組閣を完了しているのです。

 でも、その政府を見守り、支援すべきアメリカが、自らの覇権と利益のために、軍政によって、その南北朝鮮を合一した「朝鮮人民共和国」を潰し、朝鮮を38度線で分断して、南朝鮮に「大韓民国」を樹立させるのです。それが、再び、朝鮮に大変な悲劇をもたらすことになりました。

 その顛末に関しては、「朝鮮戦争 三十八度線の誕生と冷戦」孫栄健(総和社)に詳しく書かれていました。そこには、

1945810日、日本はポツダム宣言を受諾、無条件降伏の申し入れを連合国側にした。この降伏の申し入れを受けてから、直ちにアメリカ政府と軍部内においては、その深夜から翌朝にかけて、終戦処理の緊急会議が設けられた。そして、問題の終戦指令文書である「一般命令第一号」の、その第一節に、各方面の日本軍の降伏を受領する連合国の分担を指定する主旨の文章が、急遽、挿入されることになった その挿入部分の目的は、ソ連極東軍の満洲・朝鮮半島への急速南下と、それによる占領地域管理の既成事実化を危惧して、それ以上のソ連軍の進撃、すなわち、ソ連軍占領地域の拡大を抑止し、その共産主義的勢力圏が極東に浸透することを押し止めることにあった。
 この810日から11日にかけて、ワシントンの三省調整委員会で夜を徹して開かれた会議こそが、すなわち、朝鮮分断の発端であった。
…”

 とありました。

 

 そういう過去を踏まえると、今、大事なことは、客観的な史実に基づいた日韓の真の関係改善だと思います。

 しばらく前、韓国は、「日本側の佐渡鉱山追悼式に参加しない」ことを決めました。その際、日本側の追悼式の内容に関わる追悼式関連事項が「当初の佐渡鉱山登録時の合意水準に達していない」ということが重要な考慮事項だった、と関係者が述べたということです。

 これは、2022815日に、生稲参院議員(現外務政務官)が靖国神社参拝したという誤報道だけが、不参加の理由ではないことを示していると思います。

 また、韓国外交部は、「(追悼式への不参加は)歴史について日本側と妥協しないという韓国政府の確固たる意志の表現」だとして、不参加が生稲参院議員の靖国神社参拝報道だけに基づくものでないことを明らかにしています。

 だから、日本側が、佐渡鉱山関連施設に「全体の歴史」を盛り込むと約束しながら、韓国側にとって最も大事な「強制動員」を明示せず、韓国側の主張を受け入れなかったことに不参加の根本的な原因があるということだと思います。だから韓国では、強制動員の歴史が事実上削除された状態で、佐渡鉱山の世界文化遺産登載に同意した韓国政府に対する批判が出ているということです。

 

 またハンギョレ新聞は、

生稲政務官はこの日、日本政府や市民団体の関係者だけが参加した追悼式で、”1940年代に佐渡鉱山に朝鮮半島から来た労働者がいたとし、「戦争という特殊な状況の中で、愛する家族を思いながら、危険で過酷な環境のもとで困難な労働に従事された」と述べた。きれいな言葉が並べられた追悼の辞だが、「強制労働」という表現は含まれなかった。”

 と報道しています。日本側が、日韓の溝を解消しようとはしていないことが分かります。

 同じような問題が、ユネスコの世界遺産リストに登録された端島炭鉱(軍艦島)に関してもありました。

 端島炭鉱(軍艦島)のユネスコ世界遺登録に関し、ユネスコ世界遺産委員会が、”日本政府が軍艦島等日本の近代産業施設のユネスコ世界遺産登録時に約束した‘韓国人等の強制労役認定及び犠牲者のための情報センター設立’等を履行しないことに対して強い遺憾を表明し、日本に 2022 12 月までに履行事項を再度提出するよう要請する”決定文を採択しているのです。きとんと受け止めるべきだと思います。 

 

 安倍政権以降、日本では、歴史の修正が急速に進み、過去の日本の過ちが、無かったことにされるようになったと思います。関東大震災の時の朝鮮人虐殺も、植民地支配当時の広範な人権無視や独立運動の弾圧もなかったことにされたり、アジア太平洋戦争時の「従軍淫婦」問題や徴用工問題が、都合よく、「解決済み」の問題にされたりしていますが、それは、アメリカの戦略にによって、戦犯の公職追放が解除され、戦争指導層が、戦後の日本で大きな力を持つようになったからだと思います。戦時中の戦争責任や不都合な事実は認めたくないということだと思います。

 そんな戦争指導層の思いや意図を少なからず受け継いでいる日本の自民党政権の強引な対韓政策を、自らの利益のために受け入れ、「屈従外交」と非難されるような外交をしているのが尹錫悦政権だと思います。だから、日本の自民党政権と韓国の尹錫悦政権による関係改善は、歴史の修正に基づくもので、真の改善ではないと思います。その関係改善は、日韓のみならず、北朝鮮との「争い」の継続を意味すると思います。極論すれば、それは、アメリカの分裂支配に甘んじて、東南アジアにおける平和を阻害することだと思います。

 


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