2月に行った、名古屋市立大学の学生ツアーの報告の続きです。
報告①はこちら。報告②はこちら。報告③はこちら。
こちらが、みんなで作ったロンボクの伝統菓子です。
Serabi sama Kelepon kecrit yang jajan yang original Lombok.
(左手前が、スラビという米粉を焼いてココナツをふりかけたお菓子。
右手前の緑色の玉が、 中にヤシ砂糖の液が入ったクレポンクリッというお菓子)
伝統菓子づくりをした日の午後は、ランタン村の若者たちとワークショップを行いました。
今回のテーマは「私たちはどこに向かって発展していけばいいのか」言い換えると「本当の豊かさと幸せについて」。
どうしてこんなテーマにしたかと言うと。
今回ツアーに参加した学生たちは、ESD(持続可能な開発のための教育)が研究テーマです。
持続可能な開発ってなに?持続可能とは、今の世代だけではなく孫の世代その先の世代までずっと続くことができる、ということ。
開発というのは、例えば開発途上国が豊かになっていくこと。先進国にとっては、さらなる発展ということ。
さらなる発展とはつまり、豊かに暮らしていくということ。
つまり、「今の世代だけではなく孫の世代その先の世代までずっと続くことができる豊かな暮らし」のための教育。
教育とは、人を育てること。学校での勉強を指しているのではなく、そういう新しい暮らし方・考え方・生き方を実践することそのもの。あるいは、そういうことを実践できる人たちを育てていくこと。
ESDは、特殊な考え方でも一部の人たちの趣味のようなものでもありません。
今、この時代に生きているすべての人たちの上に、網のようにかぶさった新しい概念のことなのです。
18世紀末のイギリスで始まった産業革命以降、人類は地球上の資源をむさぼるように使いエネルギーを生み出し、みるみるうちに発展を遂げてきました。でも、まだ発展しきっていない国々がこれから同じように発展していこうとしたときに、「エネルギーは足りるの?」「資源はまだあるの?」「(地球温暖化の原因につながる)CO2をもっともっと出し続けるの?」という疑問が生じてきたのです。
そこで、これからは「持続可能な開発(または発展)」をしていかなければいけないんじゃないの、ということが、1992 年にブラジルのリオデジャネイロで開催された地球サミット(国連環境開発会議)で指摘されたのです。
さて、前置きが長くなりました。
今回は、村の若者と日本の学生たちにまず次のことを考えてもらいました。
●インドネシア人「①豊かさとはただお金がある状態か?→②お金があることがつまり幸せなのか?→③あなたにとって村が発展するとはどういうことか?」
●日本人「発展した先にいる日本で、失われたもの、足りないもの。本当の豊かさとは?」
何人かの村の若者たちのワークシートより
①豊かさとはただお金がある状態か?→②お金があることがつまり幸せなのか?→③あなたにとって村が発展するとはどういうことか?
Nabila Haslina Fatmawati –dusun Lantan
① 豊かさとは、ただお金があることではない。豊かさとは、一緒にいる人への笑顔や誠実さである。
② 違う。幸せとは家族や友人の形であり、幸福は私たちがうれしい時も悲しい時も一緒にいることである。
③ 私はこの村が、ひとつもごみが散らかっていない日本のようにきれいになったらいいと思う。
IKA NURJANAH
① いいえ。幸せはお金だけではなりません。むしろ、家族や周囲の人と一緒にいることです。
② いいえ。なぜならお金は一時的な幸福を与えるだけで、確かな幸せを与えることはできないから。
③ 村に安定した職業があるがなければいけない。村人が失業せず、繁栄していくことができるように仕事を作ること。
Didi Wahyudi -dusun Antan desa
① はい、そしていいえです。豊かさとはお金だけではなく、私たちの身の回りにある自然であり、むしろ豊かな心と知識が豊富にあることです。
② 違います。お金は(幸せではなく)ただ必要なものというだけです。
③ 私たちが現在持っているものに誰もが飽きることはない進歩。私にとって最も重要なことは、村人の安全、団結、そして繁栄です。
Intan Supina –dusun Gubuk makam
① いいえ。豊かさとはお金のことではありません。豊かさとは幸せのことであり、幸せとはすべての人に分け与えることができる。笑顔やジョークや笑いの形をとって。
② いいえ。本当の幸せとは、たくさんの人と一緒にいること。笑顔やジョークや笑いを分け与えて。
③ この村からごみがなくなってきれいになること。すべての種類のごみがクレアティブで美しい手工芸品に姿を変えることで、村が発展していくこと。村がきれいで美しい場所となること。それは村の真の進歩と幸福です。そして私は、それを実現させるために活動したい。
日本の学生たち「発展した先にいる日本で、失われたもの、足りないもの。本当の豊かさとは?」
⇒生活のゆとり(時間的なゆとり)
⇒人と関わって、楽しいとか嬉しいという感情がたくさんあること
⇒困ったときに近所の人に助けてもらうこと
⇒お祈りの度に、一回ふと立ち止まる時間がある
⇒人を思いやること。
⇒常に人の気配を感じられてさみしくない。
⇒日本では、責任感・義務感に追われている。
⇒日本では一人暮らしで3日間家から出ないときもある。
⇒日本では、マンションなどでとなりに住んでいる人を知らない。あいさつもしない。
⇒日本は閉鎖的(建物も)で、他人のことは考えない。
⇒日本では「〇〇っぽいから」「〇〇らしく」役割を演じて生活
⇒日本では、人間が置いていかれている
進行役は、タナ・ベア村のトニーさんです。(写真右)
一回目の個人ワーク&グループワークの後、シェアリングをします。
日本人は、村の若者たちの「豊かさとは単にお金がある状態のことではない」「家族や友達やみんなと一緒にいることが豊かさだ」という言葉に耳を傾けます。
村の若者たちは、技術が進歩して何もかも揃っている豊かな日本では、「日本人は常に忙しい」ことや「人と向き合う時間もないこと」「自分の感情を素直に表に出せないこともある」ことなどを知り、驚きます。
さらに話し合います。
●インドネシア人「幸福と豊かさのバランスをどうとったらいいのか?そして村の・街の・州の・国の環境を守り続けるにはどうしたらいいか?」
●日本人「私たちはいったい、どこに向かって発展していくべきなのか?失ったものを、どうやって取り戻すか?またはこれ以上失わないためにはどうしたらいいか?」
「幸福と豊かさのバランスをどうとったらいいのか?そして村の・街の・州の・国の環境を守り続けるにはどうしたらいいか?」
【グループ1】
・神によって与えられたものすべてに感謝をすること。
・環境をいかに保つか。「意識を変えること、気づかうこと、環境保護のための行動を自分自身から始めること」「環境を維持するための規律」「もし自分ができるようになったら、他の人はそれを手本にすることができる。」
【グループ2】
・神様に感謝すること。
・お金だけでなく、科学に関する知識や笑顔など私たちが持っているどんなものでも共有するだけで、私たちは幸せになれます。
・あらゆるレベルの住民(お金持ちも貧乏人も農民も公務員も子供も若者も大人も)に対するケアを高める
・村の行政と住民の協力
【グループ3】
・環境をきれいに保つ
・自然の美しさ、伝統、習慣を維持すること。
・どんなことでも協力すること
「私たちはいったい、どこに向かって発展していくべきなのか?失ったものを、どうやって取り戻すか?
またはこれ以上失わないためにはどうしたらいいか?」
⇒「自分を大切にする」「自分と向き合う」自分のことをわからないと、他人を思いやることもできない。周りの幸せにまで目が届かない。
⇒「ひとりひとりの幸せ」(企業のためじゃない)
⇒「仕事を楽しく」
⇒「人間関係」
⇒「開かれた空間」
⇒「許してくれる心」個性を大切に。
⇒「ゆとり。みんなでシェアリングする時間が大切」
最後に、先生からコメントがありました。
・日本人は、神も人も自分自身も「信じる」ことを失ってしまった。
・日本人が信じてきたもの、求めてきたものは、目に見える技=テクノロジー。そのなかで、自然も失ってしまった。
・だからこそ、教育で改めて若者に伝えようとしている。でも、日本では教育も結果が大切。目に見える試験とか。
・だから日本人は、居場所がないように感じてしまう。
・ランタン村に来て、たった1日半で日本の若者はほぐれていった。(村の自然と村の住民のあたたかいホスピタリティのおかげで)
その先生のコメントを聞いて、この家の主人(オパンさんの父親)が「私も一言…」と言って立ち上がりました。
実は、オパンさんのお父さんは小学校の先生なのです。
「インドネシアでは、学校での子どもの評価は70%が個人のキャラクター、30%が試験。試験の成績だけで、評価することはありません」
参考になれば、と控えめに笑って座りました。
そんな風にして、ワークショップは終わりました。
いつもこの村でワークショップをやると感じますが、随所に「神様」「宗教」が顔を出します。
たまたまこの村はイスラム教ですが、ロンボクにはヒンドゥー教(やキリスト教、仏教)もあります。
誰もが、何かしらの宗教を信じています。そしてそれが生活の規範になっています。
だから、先生の「日本人は、神も人も自分自身も『信じる』ことを失ってしまった。」という言葉には、大きく頷いてしまいます。
12月のツアーの参加者たちも言っていましたが、日本ではもうほとんど失われてしまった大事ななにかが、この村には当たり前に存在しています。
発展していくことが、その「大事ななにか」を失っていくことだとしたら、発展はしてほしくない。
でも、「大事ななにか」を失わないで発展していけるのかもしれない。
それを共に考えるために、日本の若者とインドネシアの村の若者たちが、これからも出会い続け繋がり続けていけるように、ゆいツールは場づくりをしていこう、と思っています。
(→報告⑤)
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