![]() | 闇の底薬丸 岳講談社このアイテムの詳細を見る |
「闇の底」
薬丸岳・著
「犯人、分かっちゃった」
前半を読んで、誰もがそんな印象を抱くだろう。
テレビの火曜サスペンス劇場のように、犯人の影がチラリチラリと見える。そして、登場人物の人間関係をたどって「犯人はあの人」と当たりを付けて考えてしまうのだ。
しかし最後の最後まで来て、騙されたことに気づく。
最後まで読んではじめて「闇の底」というタイトルの意味が分かるからだ。
人間の心の闇を覗くような恐ろしさが、読後にじわりと来る小説だ。
サスペンスは、あまり語ってしまうと、これから読む人にとっては面白さを半減してしまうのだが、題材は、幼い少女に対する性犯罪。
現実に、少女が陵辱され、殺され、死体が寂しい山中に放置されるような事件は、最近も報道された。
犯罪者が精神的な病を抱えている場合もあるが、抵抗できない少女に対する犯罪はなんともやりきれない。悪いのは犯人なのだが、家族は、少女を失った悲しみとともに、「守ることができなかった」と自責の念を抱くのは想像に難くない。
性犯罪の被害をなくすには、どうしたらいいか。
このテーマをベースに、性犯罪者、被害者の家族、警察官たちの思いが絡んでいく。
結論を急げば、すべての犯罪を失くすことはできない。
この小説は、一応の決着を示しながらも、そのことを滲ませている。