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【食堂かたつむり】美味しい料理は、人を幸せにする
この本を読むと、たぶん、お腹がすいてくる。
何かを食べたくなるが、コンビニエンスやスーパーで購入したお弁当やおにぎりでは満足できないだろう。
手の込んだ料理でなくてもよいが、誰かが、心を込めて作ってくれたものが食べたいはずだ。
「食堂かたつむり」は、料理を媒介に、人と人との結びつきを確認したり、再生したりする物語である。
食べることは、生きることにつながっている。
生きるということは、ただ生命を維持しているということではない。
人は、人との繋がりの中で生きている。
主人公の倫子は、同棲していたインド人に突然去られたショックで言葉が出なくなった。
料理のイロハは、亡くなるまで一緒に住んでいた祖母から受け継いだものだ。祖母が遺した「ぬか床」だけが残り、それを抱えて、故郷へ帰る。
そして、疎遠だった母親のもとで、「食堂かたつむり」を開店する。料理は、食べる人のことを考えて、心を込めて作ったものだ。
「食堂かたつむり」にやって来て、料理を食べたお客には、次々と変化が起こる。ふさぎこんでいた人が元気になり、恋が実り、これまで伝えられなかった思いが伝わる。
倫子自身にも少しずつ変化が訪れる。これまで知らなかったことを知る。頑なに閉じていた心が開いてくる。
どんなに辛く、悲しいことがあっても、お腹は空いてくる。
そんなとき、何かを食べると、気持ちが少しホッとしてくる。
空腹が満たされると、辛さや悲しさまで少し和らいだ気がする。
そんな経験を思い出した。
その時は、「食べて気が済むなんて、単純だよなぁ」と思っていたが、改めて考えると、食べることはとても大切なことだ。
人は、他の動物や植物の生命を頂いている。
その点に敬意を示していることも、この物語に深みを感じた理由だろう。