![]() | フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略クリス・アンダーソン日本放送出版協会このアイテムの詳細を見る |
この本を読んでいて、学生時代、演劇部顧問の先生から言われたことを思い出した。
演劇を上演する時には、少ない金額でもいいから、きちんと料金をもらいなさい。
お金を払って観に来た人は、「観る」姿勢で席に座っている。
しかし、無料にしてしまうと、「観る」つもりがなかった人も、たまたま時間があれば席に座るかもしれない。会場の緊張感が損なわれることがある。
演じる側にとっても、有料か、無料かで、気持ちは異なる。
学生であっても、演じるときには有料にし、チケット代を支払って観に来てくれた人を満足するようなお芝居をしなさい。
そんな話だった。
当時は、まだ、インターネットも電子メールも普及していなかった。
無料で収益をあげるビジネスモデルは存在しなかった。
インターネットが普及したことにより、ある商品やサービスを無料にしても、収益をあげることができるビジネスモデルが出てきた。商品やサービスそのものが無料であることと、消費者が満足を得ること、企業が収益を上げられることが、結びついたのだ。
劇場で芝居を観ることの価値は存在するので、演劇部の恩師の話は、今でも通用するだろう。それとは別の次元の話として、無料であることが収益を生むモデルがあることを頭に入れておかないといけない。
本書は、「無料」を取り入れて収益をあげている企業や、その市場について、解説を試みている。
無料を取り入れた新たなビジネスモデルで展開するか。
従来のように、商品やサービスを有料で提供するかたちで展開するか。
この選択は、事業を展開するうえで、大きなポイントになるだろう。
有料を基盤に据えて展開するなら、消費者に「お金を出してもいい」「有料の価値がある」と感じてもらえる商品やサービスを提供していくしかない。
「同じようなものが、無料で手に入る」と消費者に認識されたら、底で勝負はついてしまうからだ。
個人的には、雑誌の編集に携わっている著者が、紙媒体とオンライン版の違いを指摘している部分が興味深かった。