小説のタイトルの付け方を見て、これは上手だと思った。
コンビニは、convenience (便利) +store(店)の略。
便利な店であるはずのコンビニに、真逆の「不便な」を付けている。
このタイトルを見たら、「これは、何だろう?」「どういう話なんだろう?」と思ってしまう。気になって、手に取る。
最初の数ページを読み始めたら、続きが気になり止まらなくなる。
この小説は、そんな読者が多いのではないだろうか。
コンビニの店主である女性の携帯電話に、見知らぬ番号から電話が掛かってくる。
電話の主は、女性が落としてしまったポーチを拾ったことを伝える。
ポーチの中には、貴重品が入っており、失くしたり盗まれたりしたら一大事。
電車で移動中だった女性は、ポーチを受け取りに戻る。
ポーチを拾った男性は、ホームレス。
認知症で記憶が飛んで、本名も忘れて、「独孤(トッコ)」と名乗っているという。コンビニの女店主は、この独孤を店員として雇うことにする。
コンビニは、立地や周囲の競合店の影響を受けて、売り上げは思わしくない。「不便な」と思われている店だ。
アルバイト店員、クレーマーの顧客、女店主の息子など、コンビニに関わる登場人物たちそれぞれ問題や悩みを抱えている。
しかし、独孤の振る舞いや言葉が、コンビニに関わる人々の気持ちを変えたり、行動を起こすきっかけとなっていく。
独弧は、一体、何者なのか?
この謎が、読者にページをめくらせる原動力となっている。
私が日ごろ立ち寄るコンビニでは、店員が顧客が世間話をしたり、商品を選ぶ時の相談を受けるような時間の余裕はなさそうだ。
便利だけれど、人と人が接することで生まれる「温かさ」を感じることは少ない。
心温まる物語は、便利ではなく、不便なコンビニを舞台にすることで成り立つものだったのかもしれない。
Amazon.co.jp: 不便なコンビニ : キム・ホヨン, 米津 篤八: 本
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