※昨日の「憲法のつどい」で講演された高作正博さんから、当日の講演レジュメを提供していただきました。ここに掲載します。
(一部表の部分はうまく掲載できませんでしたがお赦しください。)
なお、高作正博さんは、来たる11月18日「大阪のつどい」においても、
特別報告「橋下・『維新の会』の危険性―憲法改悪の動きに警鐘を鳴らす!」と題してお話されます。
是非ご参加ください。なお「大阪のつどい」については、追って紹介させていただきます。(T)
2012 年11 月3日(土)講演レジュメ
憲法をめぐる情勢と橋下「維新」
――広がる改憲勢力と闘うには――
作正博(関西大学)
序――「政権交代」の影響
①「民主党政権」は何だったのか?
*米国政府・日本官僚の利益に反する政府→ 鳩山内閣「普天間」問題→ 辞任
*経済界の利益に反する政府→ 菅内閣「脱原発」方針→ 辞任
*上記2つに逆らわない政府→ 野田内閣→ 結局「自民党政治」?
*辺野古移設・オスプレイ配備、原発再稼働・消費増税・TPP
②「改憲勢力」はどうなっているのか? → 自民党、民主党、橋下+石原
③「政権交代」が「改憲論」にもたらしたもの? → 護憲派を巻き込む政権交代!?
1 「改憲勢力」を診る
(1)「改憲論」の周りで起きていること?
①利用される状況、作られる環境
1)「東日本大震災」――「軍事」に対する心理的抵抗の弱まり、軍事・平時の境界?
2)「尖閣諸島問題」――今回の衝突は中国・台湾による領有権主張のせい?
*日本による「国有化」;石原東京都知事による購入方針、野田首相の国有化
*米国政府(ニクソン政権)の「あいまい」戦略→ 米軍のプレゼンスの維持
3)「軍事国家化」
*「PKO法改正案」;「駆けつけ警護」(宿営地外の組織・人を助けるための出動)
*「秘密保全法案」;「特別秘密」(外交・安全保障等)、処罰対象拡大、厳罰化
*武器輸出三原則の「例外」拡大
-米国への武器技術供与を「例外」(1983 年1月14 日、中曽根内閣)
-米国とのミサイル防衛の共同開発・生産等を「例外」(2004 年12 月10 日、小泉内閣)
-米国経由での第三国への迎撃ミサイルの輸出を「例外」(2011 年6月21 日、日米安全保障協議委員会・共同発表)
-平和貢献・国際協力での装備品供与等を「例外」(2011 年12 月27 日、藤村修官房長官談話)
*「戦略的ODA(政府開発援助)」による巡視艇供与
②「主権者」が「主権者」でなくなるとき
1)天皇の地位・権限強化、国民の義務づけ――自民党「日本国憲法改正草案」の狙い
*「天皇は、日本国の元首」(第1条)「国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする。」
*「日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。」(第3条)
*「全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。」(第102 条)
2)「解釈改憲」による「集団的自衛権」容認の動き
*野田佳彦『民主の敵――政権交代に大義あり』(新潮新書、2009)
*国家戦略会議(野田首相が議長)フロンティア分科会報告書(2012 年7月6日)
3)「憲法破毀」による「日本国憲法」無効=廃棄論
*都議会「東京維新の会」(民主・自民の離党組3人)「日本維新の会」と連携
*「『日本国憲法』(占領憲法)と『皇室典範』(占領典範)に関する請願書」
(2)「維新の会」のどこが危険か?
①統治の手法とその問題性
1)選挙で選ばれれば何でもやれる!――選挙で勝つ!
*「あなたが政治家になって、そういう活動をしてください。」
*「(僕が)選挙で選ばれたということをご理解いただくしかない。」
2)「引き下げ民主主義」の悪夢――「民意」の悪用
*日本;公務員バッシング、「既得権」攻撃、生活保護切り下げ→ 民意の利用
*EU;緊縮財政策(対公務員) → 全産業の労組の反対運動と一般市民の支持
3)反対勢力に対する弾圧――「権力」の濫用
*思想調査、入れ墨調査、タバコで処分、教研集会に会場の使用不許可
②「決められる政治」で決められてしまうこと
1)組織・教育の破壊――廃墟に残るものは?
*政治面;「均衡」の喪失と「政治」の暴走(組合と行政、教育と政治、公と私)
*精神面;「言っても無駄」「やったもんがち」、政治的無関心、アパシー(無気力)
2)既存の価値・秩序の破壊――失われてからでは遅いもの?
*「尊厳」の破壊→ 「自立」「自己責任」=「尊重」なき「個人」
*「人権」の破壊→ 思想・良心の自由、プライバシーの権利、表現の自由等
*「文化」の破壊→ 大阪フィルハーモニー交響楽団、財団法人・文楽協会
3)公共サービス縮小・規制緩和・競争社会+ 排外主義・ナショナリズム
*「もたれあい、たよりあい、依存しすぎ、悪しき流れをきちっと絶つ」
2 「改憲勢力」と闘う
(1)「改憲」の理由を検証する!
①大規模自然災害対処のための改憲? → 理由にならない
*自民党「日本国憲法改正草案」第9章「緊急事態」
*災害対策基本法、大規模地震対策特別措置法、原子力災害対策特別措置法等
②「尖閣」を守るための改憲? → 理由にならない
*自民党「日本国憲法改正草案」第2章「安全保障」――「自衛権」(第9条第2項)
* 1954 年12 月22 日の衆議院予算委員会における大村清一防衛庁長官答弁
*自衛隊法、武力攻撃事態対処法、安全保障会議設置法、国民保護法等
③集団的自衛権を「持っているけど使えない」? → ウソ!
*稲葉誠一議員提出質問趣意書に対する1981 年5 月29 日の答弁書
-「国際法上、国家は、集団的自衛権‥‥を有している」。
-「憲法9条の下において許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまる」。
「集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されない」。
国際法上、国家は? 日本国憲法上、日本は?
集団的自衛権の「保有」? ○ ?
集団的自衛権の「行使」? ? ×
④集団的自衛権の容認のための改憲? → 理由あり、しかし認めるべきでない
*外交関係の悪化;歴史認識・教科書問題、領土問題、資源開発問題、靖国問題
*「戦争ができる国」
-現状① → 海外で外国軍隊と一緒に武力行使= 違憲
-現状② → 自国への攻撃なし、他国を守るための武力行使= 違憲
-現状③ → 米国が遂行する戦争へ参加し前線で活動= 違憲
-現状④ → 憲法を理由に、米国の戦争への参加を拒否できる!
*被害者にも加害者にもなる自衛隊
⑤「維新の会」の「改憲論」
*「首相公選制」の導入【2(2)②】
*憲法改正発議要件(第96 条)を「3分の2」から「2分の1」にする
*憲法9条を変えるか否かの国民投票の実施
(2)民主主義でできることを考える!
①政治不信の連鎖――「自公政権→ 民主党政権→ 保守政権?」
*構造改革、格差拡大、「貧困」、監視社会等
*マニフェストの後退、お粗末な党運営
*「維新」に期待するのか?
②私たちの選択肢――政治不信を越えて
国会議員→ 内閣総理大臣の氏名、組閣→ 政策決定
↑ ↓
①選挙・政党② ③ 行政各部(各省庁)
↑ ↓
有権者← 政策の執行
*国会議員の選び直し(①) → 衆議院解散・総選挙はどうなったか?
-衆議院;「一人別枠方式」が「違憲状態」(最大判平23・3・23)
-参議院;「都道府県」の選挙区単位が「違憲状態」(最大判平24・10・17)
*首相を国民が直接選ぶ(②) → 「首相公選制」の導入
-中曾根康弘(1960 年代前半)、小泉純一郎(2001 年)、維新八策(2012 年)
-問題点①;「改憲の突破口」として主張されてきた
-問題点②;国会と内閣が対立した場合の決着?
-問題点③;イスラエルの「実験」
-問題点④;議会の弱体化につながるおそれ
*国会・内閣を飛ばして国民投票で決定(③) → 決めればいいってわけじゃない!
-問題点①;代表者による拒否(原発住民投票の拒否、大阪市・東京都・静岡県)
-問題点②;「プレビシット」の危険(民意と直結した行政権の優位、議会の軽視)
-問題点③;条件の整備が必要(例えば、住民投票には公選法の適用なし)
*デモ、決めない政治の効用、信頼の回復、正常な議会制民主主義のルート
(3)行動の可能性を探る!
①反対運動の展開を考える――オスプレイ配備阻止行動に見る可能性
*沖縄が反対する理由――米国による自国での対応との決定的な違い
*「適法行為」による住民運動――「凧揚げ」による飛行阻止
②「改憲論」賛成派を取り込む――「改憲不要論」のススメ【2(1)参照】
③「神話」の非現実性を暴く――「沖縄に基地は必要」はホント?
*在沖海兵隊の「地理的条件」? → 「沖縄でなくても構いません」(司令官)
*沖縄の米軍基地の「抑止力」? → 証明不可能、大陸から近すぎる
*オスプレイ配備の「抑止力」? → 艦載機の性質からの限界、リアリティ欠如
結――「平和」の実現に必要なこと
【参考文献】
・大石眞他『首相公選を考える』(中公新書、2002 年)
・小西進『「橋下総理」でいいんですか?』(機関誌出版、2012 年)
・小林英彦「民主党政権の政策決定過程の空洞化をあらわにした防衛相人事」『世界』833
号(2012 年8月)25 頁以下
・榊原秀訓編『自治体ポピュリズムを問う』(自治体研究社、2012 年)
・杉田敦「『決められない政治』とポピュリズム」『世界』835 号(2012 年10 月)182 頁以下
・塚田晋一郎「戦後日本初の海外軍事基地――看過できない地位協定の差別性」『世界』835号(2012 年10 月)174 頁以下
・辻村みよ子「カウンター・デモクラシーと選挙の効果的協同へ」『世界』835 号(2012年10 月)199 頁以下
・豊下楢彦「『尖閣購入』問題の陥穽」『世界』833 号(2012 年8月)41 頁以下
・布施祐仁「日本の空と米軍の欠陥機――全国を低空飛行するオスプレイ」『世界』834号(2012 年9月)202 頁以下
・孫崎亨『日本の国境問題――尖閣・竹島・北方領土』(ちくま新書、2011 年)
・山口二郎『内閣制度』(東京大学出版会、2007 年)
・屋良朝博『砂上の同盟――米軍再編が明かすウソ』(沖縄タイムス社、2009 年)
・屋良朝博『誤解だらけの沖縄・米軍基地』(旬報社、2012 年)
・屋良朝博「海兵隊『新ローテーション』が沖縄基地問題を打開する」『世界』836 号(2012年11 月)47 頁以下