現行の教育委員会制度では、教育委員は首長が議会の同意を得て任命します。教育委員会が現場から教科書の選択権を奪い取ると言ってよい、今回の大阪市教育委員会の付帯決議は、ますます教育への政治介入を招くことになります。 それがどれほど危険なことか!政治が教科書を使って子どもを一定方向に誘導することになれば、「お国」のための「国民」を作ることなどいともたやすいことでしょう。「君が代」不起立・不服従を貫く私たちの運動は、まさにそのような動きと闘っていきます。
大阪市教委、現場から教科書選択権を奪い取る暴挙
ブログ「大阪教育条例NO!」から転載します。
◆8月6日、大阪市立高校の教科書採択を決める教育委員会議が開かれました。前回2名の教育委員が欠席し、そのもとでは決められないとなりましたが、今回も西村和雄委員は欠席で、5名の教育委員による審議となりました。結論から言えば、各学校からの答申通り採択が行われましたが、それと引き替えにするかのように高校教科書採択制度の根幹をつぶしてしまう「附帯決議」が全員一致で可決されてしまいました。「附帯決議」では「教育委員会による適正な採択のための審議の一層の充実を図るため」として、各学校に「選定候補として2つ以上の教科用図書を答申書に記載し、それぞれの長所と短所を列記することとし、推薦順位や優劣は示さないものとする」とし、教育委員会に高校採択でも「お好み採択」の権限を事実上与えるものとなっています。きわめて重大な、制度改悪になります。
◆今日の教育委員会議の中では、暗に実教出版を批判する意見がありましたが、議論の中心は、「答申書の選定理由が明確ではない」「その学校の選定理由が妥当性があるのか、教育委員会として調査研究しているのか」「本当に学校内部で自由闊達な議論が行われたのか?選定の過程がわからない。議事録が各学校で作成されているのか?」「教員が学校の実情を反映して選んでいることを前提であがってきていると思うが、そこがはっきりしないところもある。」等、各学校での選定過程への疑問が3名(大森、高尾、林)の委員から出されました。端々に選定に関わる教員への不信がにじみ出ていました。
そして、大森委員が突然、欠席の西村委員のメールとして「教育委員会の採択の権限をさらに強めるために、今後は各学校からの答申には、各教科書の優劣をつけずにあげてほしい。」とあったことを紹介し、「付帯決議」の動議を提案しました。このような前代未聞の制度改悪の付帯決議に対しても、各教育委員からは強い異論は出されず、すんなりと全会一致で採択されました。その後、各学校の採択も答申通りで採択されました。これは明らかに、今年は答申通り採択する代わりに、来年度の採択からは教育委員会の「お好み採択」を実施する制度を担保するという、事前の合意があったとしか思えません。
◆戦後、大阪市はもとより全国の教育委員会では、高校採択において各学校から選定された教科書を承認してきました。事実上、学校採択が行われてきたのです。それは、高校は教育目標や教育課程、生徒の実態などが小中学校以上に各学校ごとに違い、教科の内容も専門性が高く、従って教科書採択には教科の専門性を有し、生徒の実態にも詳しい学校現場の声が優先されることは教育条理から当然のことでした。
また、教育委員が1~2ヶ月程度の短期間に何千とある全ての高校教科書を読んで、どれがその学校に最も適しているのか検討することなど現実的に不可能です。教育委員会議でも長谷川教育委員長から「実務レベルの心配」として「教育委員には専門性がないものもいる。5教科以外の教科は難しい問題がある。」と、実質的な調査研究の不可能性が吐露されていました。従って、戦後教育体制に根付いてきた教育条理から言っても、教育委員の物理的な業務としても今回の「附帯決議」は不当なものと言わざるを得ません。
◆そもそも、教育委員会の採択権限を明確に定めた法律はありません。貴教育委員会が根拠としている地方教育行政法第23条6には「教科書その他の教材の取扱いに関すること」とあるだけで、採択権限を明示したものではない。「学校管理機関の職務と校長の職務との関係」を説いた文部官僚も「『教科書その他の教材の取扱いに関すること』という規定があるというだけで、教育委員会が教材の取り扱いに関するいっさいの権限を有すると解するがごときは、お粗末な解釈というべきである。」(『学校教育法解説』(初等中等教育編』1968年)と認めているところです。しかも、学校での授業の具体的内容を最終的に決定する権限、教育課程(カリキュラム)の最終決定権は学校現場にあります。どの教科書を使用するかは、教育課程決定権の重要な要素となり、「教育行政機関」である教育委員会のやるべきことは、「教育機関」である学校現場の選定を尊重して採択を行うことです。教育委員会が、学校で使用する教科書を採択すること自体、行政の教育に対する「不当な支配」(教育基本法第16条)で「違法」です。
◆今回の高校教科書採択制度の変更を求める付帯決議は、これまで守られてきた戦後の教育条理にもとずく学校採択を破壊するものです。全国的にも例がない、前代未聞の事態です。これは、来年度からの小中学校での採択制度にもきわめて大きな影響を与えることは間違いありません。
是非とも、全国から大阪市教委に「付帯決議」に抗議し、撤回するように声を届けて
ください。
◆抗議先 大阪市教育委員会 指導部高等学校教育担当
tel 06-6208-9189 FAX 06-6202-7055
◆附帯決議
大阪市立の高等学校において使用する教科用図書に関し、平成27年度使用教科用図書の採択については、教育委員会による適正な採択のための審議の一層の充実を図るため、以下の諸点を含む改革を行うこととし、そのために必要な採択の方式の決定及び教科用図書選定調査会要綱の改正等の所要の措置をしかるべき時期までに講じるものとすること。
1.各学校に置く教科用図書選定調査会は、選定候補として2つ以上の教科用図書を答申書に記載し、それぞれの長所と短所を列記することとし、推薦順位や優劣は示さないものとする。
2.教育委員会は、答申書を参考にしつつ、自ら調査研究を行い、教科用図書を採択するものとする。
3.各学校に置く教科用図書選定調査会による答申と教育委員会による採択の間に、これまで以上に十分な調査研究及び審議の時間を確保するものとする。