昨日の田上富久長崎市長が行った平和宣言は、政府に対して鋭く批判し猛省を促すものでした。そしてそれと同時に私たちにも、公教育の場で、また地域市民として、日本国憲法に基づいた平和教育の課題を迫るものでした。
ところが、橋下徹大阪市長のもとで、大阪の平和教育・人権教育はどんどんないがしろにされつつあるようです。
以下は、「日の丸」「君が代」強制反対ホットライン大阪の事務局員であり、大阪市中学教員の松田幹雄さんが、所属する組合のなかまユニオン機関紙に寄稿された大阪市の中学校の状況の報告です。ご本人の了承を得て転載します。
教育基本条例下の数値目標の教育と道徳教育
なかまユニオン機関紙原稿(隔月連載 教育の現場から)
大阪市学校教職員支部 松田幹雄
テーマ:教育基本条例下の数値目標の教育と道徳教育
大阪市では、今年度から、学校で作成する「教育指導の計画」が、「運営に関する計画」にかわりました。これまでは、教育基本法と大阪市教委の学校教育指針(「人間尊重の教育を一層深化・充実し、知・徳・体の調和の取れた人間形成に努める」)をもとに、どんな生徒をどう育てるかという「教育指導の計画」を各学校で作成していました。
ところが、橋下・維新の会が主導した教育基本条例(教育行政基本条例と学校活性化条例)が成立し、その条例に沿う目標を橋下市長が決め(手続きとしては、橋下市長が任命した人達によって大阪市教育振興基本計画が作成され、それを議会が承認)、各学校はその目標を達成するための「運営に関する計画」をつくるという構造にされたのです。教育委員会の役割は、教育振興基本計画の目標達成のために「学校運営の指針」をつくって各学校を「指導」することとされました。
教育振興基本計画と学校運営の指針は、「グローバル化が進む国際社会において力強く生き抜くことができる人間」「国と大阪を愛する人間」の育成を教育目標に掲げ、各学校に対して、「学力の向上」「道徳・社会性の向上」「健康・体力の保持・増進」の3つの分野で、数値によって達成水準を示す中期目標と年度目標を決めることを要求しました。
その結果決められた「運営に関する計画」は、大阪市教委のホームページの「市民の方へ」→「入園入学」→「市立小学校一覧」「市立中学校一覧」→「各学校ホームページ」→「学校概要」→「学校評価」にアップするように指示されています。
その目標は、たとえばN中学校では、「学力の向上」…「『全国学力・学習状況調査』における国語・数学B問題の平均正答率を、平成24年度より15ポイント以上向上させる」、「道徳・社会性の向上」…「不登校の生徒を、毎年、前年度より減少させ、不登校0をめざす」、「健康・体力の保持・増進」…各科検診の中で最も治療勧告の者数の多い歯科・眼科の受診率を90%以上とする」などです。この数値目標の達成を教育評価の最重点とする学校は、いったいどうなっていくのでしょうか。
この教育振興基本計画に位置づけられているからと、道徳教育の推進も柱の1つとなっています。各学校に道徳教育推進教員をおいて、週1時間の道徳の時間を24の徳目(「法やきまりを守ろう」「この国を愛そう」など)について1つずつ指導する時間にしようとしています。そのために、人権教育として各学校でやっていた平和教育や・在日外国人・障がい者などの差別に関する教育は捨てられようとしています。子どもたちが生きている実際の生活や社会の現実から離れたところで、自分を問わない教師が、「仕事」として子どもたちの「生き方」を「指導」するのです。国家の要請する「徳目」の価値観が、内面から自然に子どもたちの身につくようにするのが教師の「仕事」とされるのです。
次回は、この動きに対抗するために私が考えていることを書きたいと思います。